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大竹聡の「昼酒御免!」

【大竹聡の昼酒御免!】「究極のセンスを感じる」フラッと遠足気分で訪れた「江の島のオーセンティック・バー」で“2打席連続マティーニ”に自問自答する春の昼下がり

若者には負けてられぬと頼んだオールドボトル

若者には負けてられぬと頼んだオールドボトル

罪なオールドボトルをクイっと

 アンチョビオリーブにやられた私が逡巡している間に、右隣の物慣れた若者の前には4本のボトルが並んでいる。左の2本はブレンデッドのスコッチとアイラモルト。その横に「アンティカフォーミュラ」というスイートベルモットとアンゴスチュラビターズだ。

「ロブロイ?」

 思わず話しかけてしまうと、彼はにっこり笑ってうなずいた。やるな。ロブロイとは。スコッチウイスキーをライやカナディアンにするとマンハッタンになる。どっちかというと、日本ではマンハッタンのほうが飲まれている気がするけれど、この若者、シブいぜ。

 いよいよ負けてられないと競争心に火がついて、こちらもスコッチのおいしいやつを頼むと、デュワーズのホワイトラベルのオールドボトルが出てきた。こういうのに、私は弱い。最初は香りを嗅ぎ、舐め、啜るのだが、気が付けばクイっとやっちまってる。うまいんだなあ。もう2度とこの味には出会えないのではないかと思わせる罪なオールドボトルであることよ。

 気が付けば満ち足りてきて、窓の外も暮れかかっている。そろそろ、昼酒は締めだ。

「マンハッタンください」

 当初の予定通りのマンハッタンだが、田辺さんは、さっきのお客さんに出した男前のマンハッタンとは違う1杯を作ってくれた。ベースのウイスキーはライではなく、「アルバータスプリングス」というカナディアンウイスキー。これが、男前と対になっていた、やさしい感じのマンハッタンのベースなのだ。

 いやあ、うまい1杯だった。どれをとっても、文句なしなのだが、最後のマンハッタンが沁みた。春の某日の最高の昼酒、そろそろお開きだが、せっかく江の島まで来たのだ。夜風にあたりながら江ノ電まで歩き、車中でひと眠りしてから、鎌倉あたりで飲みなおそうか。

片瀬江ノ島駅の目の前にあり、隣には姉妹店のスタンディングバー「DIZ」がある(「BAR d(バード)」神奈川県藤沢市片瀬海岸2-8-15)

片瀬江ノ島駅の目の前にあり、隣には姉妹店のスタンディングバー「DIZ」がある(「BAR d(バード)」神奈川県藤沢市片瀬海岸2-8-15)

シリーズつづく第1回から読む

【プロフィール】
大竹聡(おおたけ・さとし)/1963年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒。出版社、広告会社、編集プロダクション勤務などを経てフリーライターに。酒好きに絶大な人気を誇った伝説のミニコミ誌「酒とつまみ」創刊編集長。『中央線で行く 東京横断ホッピーマラソン』『下町酒場ぶらりぶらり』『愛と追憶のレモンサワー』『五〇年酒場へ行こう』など著書多数。「週刊ポスト」の人気連載「酒でも呑むか」をまとめた『ずぶ六の四季』や、最新刊『酒場とコロナ』が好評発売中。

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