優先すべきは「自分資産」への投資
「投資」というと、どうしても投資信託や個別株といった「金融資産」の話に偏りがちです。しかし、奥野さんの教えに触れて気づかされたのは、投資の優先順位を見誤ってはいけないということでした。
たとえば30代の人が仮に今から50年先まで生きるとすると、その長い期間にわたって生活を支える稼ぎの最大の源泉は何でしょうか? それはNISA の積立額でも、NVIDIA(エヌビディア)などの特定の銘柄のリターンでもありません。僕なら「アナウンス技術」や「MC力」といった自分自身のスキルや能力です。
つまり、私たちの資産(アセット)の中でもっとも大きなリターンをもたらしてくれるのは「自分自身」ということ。
具体的にシミュレーションしてみましょう。年収500万円の人が、毎月3万円を年率5%の利回りで運用できた場合、10年後の資産は約463万円になります。運用益は約103万円。
一方、自己投資によってスキルを磨き、年収を500万円から600万円に増やすことができれば? そう、たった1 年で10年分の運用益と同じになります。
勘違いしてほしくないのは「だから投資しなくていい」ということではありません。投資も大切です。たくさん稼ぎ、その一部を投資に回すのが理想です。しかし、世の中には投資のことにばかり気を取られ、自分自身というもっとも貴重な資産を磨かない人がいる。
投資ブームの今、自分のスキルを磨くことを疎かにし、投資の勉強ばかりをしている人が多すぎる。奧野さんはそのことに警鐘を鳴らしているのです。
「自分資産」を磨く2つのカギ
では、どうやって「自分資産」を磨くのか。奥野さんの教えは、次の2つの言葉に集約されます。
1つ目は「付加価値」です。付加価値とは、あなたが提供できる価値のこと。「誰のどんな問題を解決できるか」「誰をどう喜ばせることができるか」と言い換えてもいいでしょう。
たとえば、エンジニアであれば「企業の業務を効率化するシステムを開発できる」、営業であれば「顧客の課題を的確にヒアリングして最適な提案をする」、デザイナーであれば「ブランドの世界観を視覚的に表現できる」といった具合です。
提供できる付加価値の「質」が高ければ高いほど、「ありがとう」を集めやすくなります。
2つ目は「競争優位性」です。これは、同じようなスキルを持つ人が数多くいる中で、「なぜ自分が選ばれるのか」を明確にすることです。言い換えれば、「自分にしかできない」あるいは「自分のほうが得意な」領域を持つことです。
付加価値があっても、それを提供できる人がほかにいれば、なかなか選ばれません。選ばれたとしても、たくさんの「ありがとう」は集められない。だからこそ、自分の価値を唯一無二のものにしていく工夫が必要になります。
僕自身の経験を振り返ると、TBSを退社するか悩んでいた時期、はからずも奥野さんのこの教えを実践していました。
僕の持っている強みは、アナウンス技術やMC力です。でも、同じ強みを持つライバルは山ほどいる。つまり、それだけでは差別化ができません。そう考えて業界を俯瞰してみたとき、1つの事実に気づきました。
「スタートアップに飛び込み、ビジネスの現場を経験したアナウンサー」はほぼ存在しない。さらに、ただ番組に“出演する側”ではなく“つくる側”、つまりプロデューサーとして企画・制作まで手がけられるようになれば、それは明確な差別化になる。この2つを掛け合わせれば、自分にしかできないポジションがつくれるはずだと考えました。
結果的に、この“賭け”は成功しました。自分自身のキャリアを再設計し、ほかのアナウンサーとは違う価値を提供できるようになったことで、今でも多くのお仕事をいただけています。この本を出版できたのだってそうです。
そしてあとになって理解したのは、僕が無意識に試行錯誤していたことこそ、まさに奥野さんの言う「自分資産」の考え方そのものだったということです。