ストップ安の引き金は
しかし、この輝かしい実績発表の直後、フジクラの株価は垂直落下した。大量の失望売り注文が殺到し、最終的にストップ安でその日の取引を終えた。その引き金となったのが、同時に開示された2027年3月期(今期)の業績予想である。
会社側が提示した新年度のガイダンスは、売上高が前年比5.1%増の1兆2430億円、営業利益が同11.8%増の2110億円、経常利益が同9.3%増の2180億円であった。ここまでは増収増益基調の維持である。しかし、当期純利益に関しては1560億円と、前年比0.7%減の減益見通しを示した。
マーケットは、AI相場の主役であるフジクラに対し、トップラインからボトムラインまで数割単位での青天井の成長を期待していた。売上高の伸びが1桁台にとどまり、純利益がマイナス成長となる見通しが示されたこと、さらに営業利益の会社予想(2110億円)が事前の市場コンセンサスを大きく下回ったことがネガティブサプライズとなり、売りを誘発した。
これほど好調な事業環境下で、なぜ新年度の通期見通しにおける純利益が減益となったのか。決算書とIR資料から読み解ける理由は、大きく2点に集約される。
第一は、急速な事業拡大に伴う「サプライチェーン(供給網)のボトルネックと地政学的リスク」を極めて保守的に織り込んだ点である。フジクラは情報通信事業において、顧客からの爆発的な需要に応えるべく光ケーブルの増産体制を急いで敷いている。しかし会社側は、その急速な増産により、製造工程で不可欠な「水素等の一部の原材料調達が追いつかなくなる懸念」があると記し、この影響をガイダンスに保守的に見込んでいる。さらにIR資料では、足元で発生しているホルムズ海峡封鎖による物流停滞や、ナフサ供給の逼迫を背景とした原材料の不足・価格上昇リスクにも言及している。もちろん、会社側は「トランプ関税の還付」やデータセンター向けの強い需要継続といったポジティブ要因を見込んではいるものの、それを上回る物理的な調達制約とコスト増の不確実性を重く受け止め、売上高成長率を5.1%という控えめな数字に留めている。
第二に、「特別利益の剥落」という会計上の要因がある。前期(2026年3月期)のめざましい当期純利益(1571億円)には、本業の収益に加えて多額の一時的な特別利益が計上されていた。具体的には「関係会社株式売却益」として30億7200万円、「投資有価証券売却益」として23億7000万円など、特別利益合計で86億1700万円が計上されている。今期の予想営業利益は前期比11.8%増と、本業の稼ぐ力自体は確実に成長を続けている。しかし、前期の純利益を大きく押し上げていた「株式売却益の反動」が生ずるため、それを差し引いた今期の純利益は、表面上「0.7%の減益」になってしまったのだ。現代のマーケット状況において、多額のポジションを取引するような機関投資家は多くの場合、表面的な数字判断でアルゴリズム売買を行うため、「成長鈍化」という判断をしたとしてもおかしくはないだろう。