閉じる ×
閉じるボタン
有料会員限定機能の「クリップ」で
お気に入りの記事を保存できます。
クリップした記事は「マイページ」に
一覧で表示されます。
マネーポストWEBプレミアムに
ご登録済みの方はこちら
小学館IDをお持ちでない方はこちら
ビジネス

【小売りの神様】鈴木敏文氏がいまも健在であればセブン-イレブンはどう変わっていたのか

鈴木氏がいたなら今のセブン-イレブンの棚はどうなっていたか

 仮に鈴木氏が今も第一線で指揮を執っていたなら、今のセブン-イレブンの棚はどうなっていただろうか。歴史的な円安を受けて訪日外国人が急増し、日本の消費市場は明確に変容している。免税レジに並ぶ長い列、棚から消えるドラッグストアの定番品、深夜のおにぎりコーナーに群がる旅行者……。鈴木氏の哲学に照らせば、訪日客を「ついでに買ってくれる客」として扱う発想こそ、最も忌むべき「売り手目線」であろう。

 鈴木氏がいたなら、旅行者の立場に憑依した売り場は、おそらく既に出来上がっていたはずだ。ドン・キホーテは2025年6月に新宿東南口別館で立ち上げたインバウンド特化型店舗が大成功しているが、ドンキより数年先んじてセブン-イレブンで積極的な商品展開をしていたであろうことは、想像に難くない。

 現実のセブン-イレブンは、上げ底弁当やパッケージの錯視などが話題に上ることも多く、小手先の延命策に手を染め、消費者の信頼を自ら毀損している印象だ。容器の底をえぐり、フタを分厚くし、サンドイッチの断面だけに具を寄せている──少なくとも消費者にそう受け止められている以上は、インフレと円安を理由に値上げを正面から告げる勇気を欠き、目先のグラム単価を守るために顧客の目を欺いていると指摘されても仕方ないだろう。

 鈴木氏が説いた「お客は一度がっかりすれば信用ごと失う」という警句が、皮肉にも企業自身によって実証されつつある。現経営陣は「アコギなことはできない」と否定したが、現物のえぐれた容器が目の前にある以上、発言は火に油を注ぐだけである。顧客の財布を慮るふりをして、実態は四半期決算を慮っている。「顧客のために」と「企業のために」が、見事なまでに混同されている。

 訃報に接して感じるのは、ひとりの経営者の不在が市場の地形をかくも変えるのか、という驚きである。鈴木敏文氏が遺した「顧客の立場で考える」という言葉は、流行語ではなく、小売りの絶対的法則である。

 この法則を無視した瞬間に、企業は墜落する。墜落しつつある現実を眺めながら、流通王が当たり前のように引き上げてくれていた地面の高さを、改めて思い知る次第である。

 鈴木氏が築いてきた「達成」は、消えたわけではない。セブン-イレブンにもローソンにもファミリーマートにも、そしてドン・キホーテにも息づいているように感じる。セブン-イレブンには大復活をしてほしいが、セブン-イレブンにそれが無理でも、鈴木氏の後を引く継ぐものが、次の時代の覇権を握ることになるだろう。

【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。