関西の場合、評定平均値は「信頼できない語り手」
さて、この公募制推薦が関西で拡大した理由として、受験生にとって受験しやすいということ以外に、関西の大学入試では「評定平均値を重視できない」という点も挙げられる。関関同立の総合型選抜の合格者データを見ても評定平均値はほとんど関係ないことが分かる。推薦対策の塾が「評定平均値2.9で難関私立の総合型選抜に合格」といって紹介する合格者はほぼ関関同立だ。関東では2.9で知名度のある私大に受かることはまずありえない。
なぜ、評定平均値の扱いが関東と関西で違うのか。それは関東では評定平均値で学力が測れるからだ。関東でも特に私立高校の多くは評定平均値が厳格なので、「この高校でこの評定ならこの学力」ということを大学側が分析できる。
一方で、関西の高校の場合、評定平均値で学力を測ることが難しい現実がある。そうなると、学力を確かめるためには学科試験を行うしかなくなる。
ちなみにこれは関西だけではなく、首都圏以外の地方はどこも同様の事態となっている。地方の高校の評定平均値は大学からすると「信頼できない語り手」になってきている。その結果、今、地方の国立大学が推薦・総合型選抜を縮小しようとしている。
関西の関関同立も推薦・総合型選抜に積極的ではない。関西学院は一時期、推薦・総合型選抜を拡大し、2020年度に一般選抜の割合が34.6%まで減少した。しかし、2025年度にはそれが53.1%にまで増加している。ようは評定平均値を重視する指定校推薦では大学が求める学力層の学生が入ってこなかったからと推測できる。
将来的には少子化が進み一般選抜のペーパーの学科試験での選抜が困難になっていく。それに向けて文科省は多面的な入試……つまり、学科試験だけではなく、評定平均値、英検や数検のような資格試験、志望理由書、面接、小論文などを組み合わせた入試を推奨している。多面的な入試というが結局は評定平均値を重視することになる。アメリカの入試はすべて総合型選抜だがそこでは高校の成績が重視される。日本もそうなっていくだろう。
しかし、関東以外の地域では、評定平均値が「信頼ができない語り手」になっているので、多面的な入試は拡大が難しい。公募推薦と呼ばれる年内の推薦で学科試験のみで合否を決める入試が関西で浸透したのは、こういった事情がある。近畿大学の年内学力入試の志願者は2026年で5万5000人と大規模だった。関西の高校生からすると年内学力入試は「当然、存在するもの」なのだ。
ところがここにきて、この年内学力入試が岐路に立たされている。次回はなぜ、関西の年内学力入試の今後についてみていこう。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(ともに青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)、『東洋経済education×ICT』などで連載をしている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも更新中。