故・日野原重明氏の言葉「視野の狭い人は医師に不向き」
学問的関心がないことは大きな問題だ。医師、研究者としての私の長い経験に照らすと、実際の医療現場に必要なのは視野の広い医師であり、医師には医学のみならず広い教養が必要だと思う。逆に言うと、非常識で知性に欠ける人物は医師に向いていない。
聖路加国際病院院長を務めた故・日野原重明先生は「医師はできるだけ広い教養を身につけるべきだ。視野の狭い人は医師に不向きで、文学、芸術、体育、なんでもござれでありたい」と私におっしゃっていた。先生はオペラを作曲し、楽団を指揮された。余人には無理だが、音楽に興味があることが先生にとっては良い医師の四大条件の一つだった。
日野原先生は医学においても専門以外の広い知識をお持ちだった。たとえば先生に、心疾患のため塩分制限をしていた患者の視力が落ちてきた事例を話したところ、「少し塩分を増やしなさい」とおっしゃった。教科書では心疾患の場合は塩分はダメと書かれている。ところが先生の言われたとおりにしたところ回復した。経験に裏打ちされた知識ほど強いものはない。「医学というものは不確かさの科学である。どんな疾患でもその表現はとても変わりやすい」と近代医学の祖オスラーは述べている。疾患は必ずしも型にはまったものではないのだ。そこに経験が生きる。
また医師の教養に関してはこんな話もある。ある大学の病理学の教授が、学科試験に日本史の問題を加えたために父兄から抗議を受けた。このとき教授は「この程度の教養がなくては医師は務まらない」と堂々と答え、一歩も引かなかった。大したものだ。