Kさんの指導を受ける筆者とMさん
「謝るのがオレの仕事なんで」と言ってくれた上司
そういった意味で本当に感謝するのが、現在、博報堂の執行役員である、嶋浩一郎さんです。私は27歳で同社を辞めたのですが、その後も一緒に仕事をする機会に恵まれました。
2001年、嶋さんは朝日新聞に出向し、若者向けの新聞「SEVEN」の立ち上げに携わりました。当時、米国で同時多発テロ(911テロ)が起こり、私と女性ライターのEさんが、下請けの取材スタッフとして記事づくりにあたりました。
Eさんがイスラム教関連の記事をつくるにあたり、高名な大学教授を取材したのですが、ゲラをチェックしてもらう段階で教授は「私の意図と違う!」と激怒してEさんに電話。
Eさんは嶋さんに「先生が怒っています」と相談したところ、何も理由は聞かず「すぐ行って謝罪すればいいんだな」と言い、菓子折りをすぐに買いに行き、そのままタクシーで教授のもとを訪れます。激高する教授の話を嶋さんが丁寧に聞くうちに、徐々に態度が軟化していき、改善点を見出して、無事にこの記事が世に出ることになりました。
Eさんは「嶋さん、私のミスをかぶっていただきごめんなさい」と言いましたが、嶋さんは「あっ、謝るのがオレの仕事なんで、Eさんは、しっかり取材と執筆をしてくれればいいんです」と一言。この時に私自身も「イヤな上司にならない」を決め、一緒に仕事をする相手にこの20年ほど怒っていません。これでいいんです。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)/1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『それってホントに「勝ち組」ですか? 現代格差の読み解き方』(鹿砦社)。
嶋浩一郎さん(=右)と筆者

