時代遅れの学習指導要領になっていないか(イラスト/井川泰年)
文部科学省の中央教育審議会が次期学習指導要領の改訂案を大筋了承した。生成AIの活用を初めて明記するなど「情報教育の拡充」が柱で、全面実施は2030年度以降になる。AI&スマホ革命による「第4の波」が到来する中で求められる教育とは何か。ビジネス・ブレークスルー大学学長なども務める経営コンサルタントの大前研一氏が提言する。
10年に1度の改訂では遅い
文部科学省の中央教育審議会は9月下旬、小中高校の教育内容の基準を定めた次期学習指導要領の改訂案を大筋了承した。改訂の大きなポイントは「情報教育の拡充」で、小学校は「総合的な探究の時間」に「情報の領域」を追加し、中学校は新教科「情報・技術科」を創設、高校は「情報I・II」を強化などである。生成AI(人工知能)の特性やリスク、データ分析などを学び、情報活用能力やメディアリテラシーを高めるためで、学習へのAI活用も指導要領として初めて明記するという。
学習指導要領の改訂は「10年に1度」で、次期指導要領は小学校が2030年度、中学校が2031年度から全面実施され、高校は2032年度から順次実施される見通しだ。
だが、「10年に1度」の改訂では“秒速”で進んでいる21世紀の世の中の変化に対応できない。改訂の実施は4年後以降だから、その時すでに時代遅れになっているのは火を見るより明らかだ。これは日教組が怖い文科省が教師の対応能力と対応スピードに合わせているからかもしれない。
その上、改訂内容は小手先のちまちまとしたマイナーチェンジに過ぎないから、教育現場は「十年一日」の学習指導要領に従った工業化社会時代のままのカリキュラムで授業を行なっている。もはや学習指導要領はフルモデルチェンジすべきであり、もっと短い時間軸でアップデートしていかなければ、日本の教育は時代に追いつけず、日本人は世界で活躍できないだろう。
実際、すでに北欧には学習指導要領を3か月に一度書き換えている国もあるし、オーストラリアなどでは学校が自主的に変更できる。
デジタル化・IT化、さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)とAI&スマホ革命=第4の波の中で「情報教育の拡充」が重要なのは、今さら言うまでもない。とりわけ2022年11月に登場したオープンAIの「ChatGPT(チャッピー)」をはじめとする生成AIは、世の中に目覚ましい変化をもたらした。それから4年近くが経過した今日、知の磨き方や学習法は激変している。
たとえば、私が日本で最も美しいと思う高知県・早明浦ダムの人造湖(さめうら湖)は、この夏以降の日照りで貯水量が激減して水位が下がり、一時は湖の底にある旧大川村役場の庁舎が姿を現してしまった。そこでチャッピーに同ダムの現状を質問したら、直近の降水量や流入量、貯水量、貯水率などを調べてくれた。
さらに私が「渇水はこの先どれくらい続くのか?」と問いかけると、「今後の降水量と流入量がわからないので答えられません」と素直に答えた上で「そのほかに私はこんなことも調べられますよ」と返してきた。質問次第で、より深い“対話”が成り立つのだ。
あるいは、コロンブスのアメリカ大陸“発見”やバスコ・ダ・ガマのインド到達、マゼランのマゼラン海峡発見と太平洋到達など、西暦1500年前後に歴史的なトピックが集中した理由を尋ねると、財政に困窮したスペインやポルトガルの王室が富を求めて世界の海に船を派遣する大航海時代が到来し、造船技術もそれに耐えるものになった──などと教えてくれた。
従来、グーグル検索などで得ていた知識は「点」だったが、生成AIを使えばそれが「線から面」になり、さらに質問を重ねていくことによって「立体的」な思考回路が形成されるのだ。
