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なぜ失業率が低いのに景気は上向かないのか 大前研一氏解説

「景気が悪くなると失業が増える」というイメージから、景気と失業率に相関関係があるように思われるかもしれない。たしかに昔はそうだった。しかし、実は日本のような「成熟国」では、両者は相関しないのだ。

 たとえば、イギリスの失業率は1980年代は10%前後だったが、現在は5%を下回って史上最低水準になっている。マクロ経済学上は日本と同じく「完全雇用」に近い状態なので、飲食店などのサービス業は人手が全く足りなくなっている。ところが、国民の多くは「景気が悪い」「移民が仕事を奪った」と言ってブレグジット(EU離脱)を決めた。

 アメリカの失業率も、現在は4%台で非常に低い。だが、中西部から北東部ニューイングランドにかけての斜陽産業が集中する「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」は非常に景気が悪く、所得も低い。そしてラストベルトには、「プア・ホワイト」と呼ばれる白人の低所得者層が多い。この人たちが昨年のアメリカ大統領選挙で、2500万人の新規雇用創出や移民規制を公約に掲げたトランプ氏を熱烈に支持したのである。

 こうした事例でわかるように、景気が良いと失業率が低く、景気が悪いと失業率が高いという相関関係は多くの国民の頭の中に染み込んでいるが、実際にはほとんどの成熟国では状況が異なるのだ。

失業率を下げる政策は意味がない

 とはいえ、これまでは失業率が「景気の指標」の一つにされてきたから、一般的な考えでは「失業率を少しでも下げるために、政府がいろいろな政策を打つべき」「それが景気の刺激になる」と思われるだろう。

 だが、今の日本のように失業率が低い国の場合、いくら政府が景気対策と称して公共事業や低所得者層に対する補助金などに予算を注ぎ込んでも、ほとんど効果はないのである。しかも、それは社会のマジョリティではなく、マイノリティのための政策になる。その結果、本当に重要な経済政策と実際の政策が大きくずれてしまう。

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