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がんで亡くなった父との最後の時間 あらためて思う今後の生き方

父親のお気に入りの従妹に昔の恨みつらみを爆発

「おじさんがそんなに悪いとは思っていなかったから、ショックだよ」

 ハンドルを握りながらA子は言う。A子と私は父親同士が兄弟。お互い、“継母”、“継父”に育てられ、彼女が「おじさん」と呼ぶ“父親”と私たちは血縁ではない。

「おじさんは昔、うちの仕事の手伝いに来てて、そのとき、よく遊んでもらったんだ。何年か前のお正月には電話をくれてね。『A子ちゃんは身寄りがないんだから、正月はうちに遊びにこーな』と言ってくれたの。涙が出たよ」

 A子は40代から50代にかけて、父、弟、母、継母を見送って今はひとり暮らし。父親はそれを気づかったそう。

 涙声のA子につられ、私も「あれで、いいとこあるから」と言いそうになったけど、どうしても言葉にならないんだわ。その代わり、口をついて出るのは子供のころからの恨みつらみ。

 月日が流れ、昔のイヤなことはみんな忘れて、穏やかな親子関係を築いてきたはずなのに、車の窓に田園風景が広がってきたら、黒い記憶、苦い思い出が湧き上がって止まらないの。

「私にはいいおじさんだったけど」とA子が言えば、「外面、よかったから」と私。それが、いざ本人の顔を見ると気持ちが変わるんだね。

父親の亡骸にかけた「お疲れさま」

 3時間かけて病院に到着して病室を開けると、4日前よりずっと容態が悪くなっていてね。「父ちゃん」という私の呼びかけに父親はすーっと目を開け、A子の顔を見たら案の定よ。顔にみるみる生気が戻って、目を輝かせたではないの。

「おじさん、来たよ~。A子だよ、わかる? どっか痛い?」

 A子は優しい声で語り掛けながら、ベッドに近づいて父親の手を握り、指先で落ちくぼんだ頬をなでる。

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