生保など機関投資家の外債運用にかかわる為替取引が、為替相場に大きな影響を及ぼしています。
生保など日本の機関投資家は、現在、運用難です。日本国債の運用は難しく、ヘッジ付き外債(為替ヘッジのためのドル売りをする外債運用)だと利回りが出ないとなれば、オープン外債(為替ヘッジをしない運用)を選ばざるをえないのが実状です。
米国の利下げの見方も強まってはいるものの、利下げのペースは0.25%刻みになると思われます。もちろん、引き下げれば一時的にドル売り円買いになるとは思いますが、長期的には依然として日米金利差がある以上、この運用難の時代にオープンの米債運用から手を引くことはできないでしょう。
ただし、彼らも、過去に外債運用では何度も痛い目に遭っています。したがって、その運用は極めて慎重です。
まず、外債購入時は、ドル/円が下がった時に限定して買ってきます。そして、オープン外債と言っても、厳密な意味でオープンではありません。ドル/円が上がれば、しっかり売ってきて、為替差益を確定します。
そして、再びドル/円の価格が下がれば、また買ってきます。すなわち下がったら買い、上がったら売りを繰り返しているのです。それが、ドル/円相場を膠着させる、ひとつの原因になっていると思います。
ドル/円日足チャート(チャートはTradingView)
しかも、このやり方は財務省・日銀にとっても好都合です。彼らは、輸出産業などのことを考えれば、ドル/円が円高に動くことを望みません。しかし、野放図に、円安に行かれても困ります。
なぜなら、トランプ政権から意図的な通貨安と指摘され、日本にとって不利な為替条項を押しつけられる危険性があるからです。
つまり、財務省・日銀は、動かない相場を望んでいます。
そこへ、生保など民間の機関投資家に加え、GPIFのような公的な運用機関が、下がったら買い、上がったら売りを繰り返してくれれば、財務省・日銀が手を出さずとも、「動かない相場」が実現するのですから、文句はないと思います。
これが、現状の膠着した為替相場の一因ではないでしょうか。
【PROFILE】水上紀行(みずかみ・のりゆき):バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。主著に『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』(すばる舎)、『FX常勝の公式20』(スタンダーズ)他多数。メールマガジン「水上紀行のFXマーケットフォーカスト」配信中。ツイッター@mizukamistaff