大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

「最低賃金」引き上げ&全国一律化なら地方と雇用が壊滅する

 すでに日本ではパート・アルバイトの時給が全国平均で1000円を突破して頭打ち感が出てきたと報じられたが、それは普通の正社員の給与を超えるようになっているためだ。時給1000円なら1日8時間・1か月22日間働くと、給料は月18万円弱になる。

 一方、正社員であっても賃金が安い業界や職種では、月給16万円程度のところも珍しくない。日本の場合は正社員の月給が極端に低く抑えられているのだ。

 その理由は、これまで日本企業は終身雇用・年功序列を前提とした給与体系で、最初のうちは給与を低くして年齢や役職が上がるにつれて徐々に高くしていたからだが、今やほとんどすべての企業は終身雇用・年功序列が崩壊しつつある。にもかかわらず、未だにその理屈が給与を低く抑えるために使われているのだ。

 最低賃金を全国一律にするというのも「百害あって一利なし」だ。私は以前、九州でネットスーパー事業を展開するエブリデイ・ドット・コムを経営していたが、地方では賃金が安くても生活費も安いから、十分暮らしていける。たとえば、賃貸物件で最も高額な駅前新築マンションの2LDKが5万5000円だった。

 賃金や土地が安いから雇用が生まれて地方が発展し、立地した企業が斬新なビジネスを展開することもできる。その典型は「ZARA」「Bershka」などを世界中で展開するアパレル企業インディテックスだ。同社はスペインのガリシア州ア・コルーニャ県という片田舎の創業地に今も本社を置き、大量の雇用を創出して地域の発展に寄与している。世界的なアパレル企業がこの地で成長したのは、EUの中でもとくに賃金が安かったからだ。

 ドイツ経済もそうだ。地方自治が確立していて日本のような中央政府からの補助金や地方交付税交付金は原則禁止されているため、失業率が上がって賃金が安くなった地域に次第に企業が移っていく。その結果、アダム・スミスの「神の見えざる手」が働き、日本で言うところの「国土の均衡ある発展」が可能になっているのだ。

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