田代尚機のチャイナ・リサーチ

米国債 中国の保有残高減少が続き、日本が買い増す構図に

 2019年の貿易黒字額は前年よりも増えているという点を見ても、米中貿易戦争の影響は吸収されているといえよう。これ以上の関税率の引き上げ、対象の拡大は、アメリカ経済への影響が大きいだけに実施の可能性は低いとみられ、アメリカの手詰まり感は強い。

 アメリカは今回の部分合意を通じて、中国に数値目標を設定させた。中国は、2017年のデータを基準として、アメリカからの工業製品、農産品、エネルギー、サービスなどの輸入額を2000億ドル増やすと約束している。この数値目標を含め、今回の合意内容の実施状況をチェックするために、中国の担当副首相、アメリカ通商代表部の代表がそれぞれ陣頭指揮を執る形で貿易ストラクチャーグループを作り、合意の実行状況を討論するために、半年に1回程度の会議を開くことを決めている。しかし、この組織、会議にどの程度の意味があるのだろうか。アメリカには大きな弱みがある。そのために中国に強く当たることはできない。

2019年6月に日本が米国債保有1位に

 2018年における政府債務残高対GDP比率(IMF推計ベース)の国際比較をみると、断トツに高いのは日本で237.13%ある。スーダン、ギリシャ、ベネズエラなどを抑え、世界最大となっている。アメリカは104.26%であった。G7では、日本、イタリアに次いで高い水準となっている。ちなみに中国は、50.64%に留まっている。

 アメリカの国家財政は国債発行に大きく頼る構造となっている。国債の消化に当たって海外諸国は重要な買い手であり、長年中国がトップの座を維持してきたが、2019年6月に日本が逆転、その後、11月までその地位を維持している。11月時点における日本の保有残高は1兆1608億ドルで、中国は1兆892億ドルである。その差は小さいが、第3位のイギリスは3286億ドルに過ぎず、両国とそれ以下との差は歴然としている。

 中国の保有残高は2018年6月には1兆1912億ドルあったが、そこからはっきりとした減少トレンドが発生しており、2019年11月までの17か月間に1020億ドル減少している。

 アメリカが中国に対して実際に追加関税措置を実施したのは2018年7月でありそれ以降、緩やかではあるが中国はアメリカ国債を売りに回っている。それに対して日本は同じ期間、1283億ドル買い増している。

 中国は、トランプ大統領のような激しい交渉の仕方は好まない。決して脅すようなことはせず、静かに売りつつ、アメリカが消化に窮するようになった時に、足元を見るように交渉を持ち出すのではなかろうか。

 トランプ大統領による減税政策は財政を悪化させている。大統領選を前に景気に抑圧的な政策を採ることはできないので、財政状況の改善は当面、望めない。今後も、国債の消化を無難にこなし、利回りを安定させるためには、日本などに安定した買いを続けさせると同時に、中国にそれを上回るような売りを出させないことが重要となるだろう。

 そう考えると、アメリカが中国に対して強く出ることは難しい。中国の国家資本主義の根源に関わるような補助金支給の抑制など中国は受け入れるはずもない。アメリカも口先では攻撃を続けるだろうが、実際に実現を強要させるほどの力はない。米中貿易戦争は、あくまでも、トランプ大統領のショーに過ぎないのではないか。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(http://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。

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