田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国経済が目指すコロナ・ショックからの回復の道筋

 新型コロナウイルスの蔓延を抑えるための政策は、経済にとっては非常に厳しい劇薬である。

 PMI調査対象企業では3月25日現在、大中型企業の操業再開率は96.6%に達している。武漢市やその周辺都市における都市封鎖は4月8日に解除されている。しかし、人の移動制限は北京、上海など大都市圏を含め、依然として行われている。労働者の不足問題がまだ残るとはいえ、供給力はほぼ正常化されたとみられるが、需要面では依然として制約が大きく、抑圧された状態である。政府の支援が期待されるところである。

 中国は社会主義国であり、経済、特に金融は国有企業が中核を占めることから政府によるコントロールが相対的に及び易い国家である。それに、危機が発生した1月後半の段階で、金融安定化政策を打ち出しており、それ以降矢継ぎ早に金融緩和政策を実施するなどセーフティーガードはしっかりと出来上がりつつある。日本では、零細企業や個人に直接お金を配るような政策をこれから打ち出そうとしているが、中国ではそうしたやり方はしていないし、する必要はなさそうだ。

 需要を拡大させるという点では、新型インフラ投資拡大策が主であり、自動車消費の促進などの消費拡大政策は従である。

 新型インフラ投資の正確な概念を示すと、“新”とは科学技術のイノベーション、スマートマニュファクチャーの領域において新しいことを体現するという意味であり、言い換えるならば、情報デジタル化インフラ設備建設のレベルアップである。具体的には、5G関連、特別高圧電力輸送網、都市圏高速鉄道・軌道交通、新エネルギー自動車充電スタンド、ビッグデータセンター、人工知能、工業インターネットといった7つの重大分野を指す。

 国家予算を使った財政政策ばかりが注目されがちだが、中国では、公共投資の財源は、一般に、中央よりも地方、地方よりも銀行による拠出が多い。中央が、これは国家プロジェクトだと指定さえすれば、資金は出せるシステムとなっている。重要なのは、中国は不要不急の投資はしないということ、需要創出はあくまで構造改革に繋がるものを中心に置いているという点である。景気対策として、質を無視しての財政政策など、最初から実施するつもりがないのだ。

 世界の投資家は、中国の景気がV字回復するかどうか、数字ばかりに注目している。しかし、どう成長するのか、どう回復するのかといった質について、全体ではなく、個別のセクター、例えば新型インフラ投資関連などについて、もっと注目すべきであろう。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(http://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。

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