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かつては日本でも被害、いま南アフリカで鉄道架線の盗難相次ぐ背景

JR東日本新幹線に設置されているパンタグラフとトロリ線(筆者撮影)

JR東日本新幹線に設置されているパンタグラフとトロリ線(筆者撮影)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中の鉄道会社が甚大な打撃を受けている。そうしたなかでも、南アフリカ共和国の鉄道では、ロックダウンのさなか大規模な架線の盗難事件が多発しているという。同様の事件は、日本でも度々起きているというが、よりによってなぜ架線が盗まれるのか、鉄道ジャーナリストの梅原淳さんが解説する。

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 コロナの感染拡大により、世界でも特に深刻な打撃を受けているのが、南アフリカ共和国の鉄道だろう。2020年3月から6月まで実施されたロックダウンの期間中、同国鉄道公社「メトロレール」の都市圏の路線で多くの設備が盗難・破壊に遭い、約2200kmある大半の路線で運転が再開できなくなる事態に陥ったからだ。

 南アフリカの鉄道で盗まれた設備の筆頭は「架線」である。架線とは、鉄道車両の上部空中に張られた金属製のケーブルで、電車や電気機関車に電気エネルギーを供給する役割を果たす。電車や電気機関車は、屋根に設置した「パンタグラフ」と呼ばれる装置を架線に触れさせて電気を車内に取り込む。路面電車や地方の鉄道などの一部を除いて、2~3本の架線が縦方向に並んで張られている。架線が1本だけでは弛みやすくなり、車両の速度が上がるほど、パンタグラフが架線から外れやすくなってしまうからだ。

 複数の架線のうち、パンタグラフに直接触れるのは「トロリ線」と呼ばれるケーブルだ。列車のスピードや通過する本数に合わせてトロリ線の直径は8~15.5mmまでとさまざま。超高速で走る新幹線の場合、大多数が直径11mmまたは15.5mmのトロリ線が使われており、1~2トンの強い力をかけて張られている。直径15.5mmのトロリ線は、最も強い2トンの力で張られている場所では3~3.5mm摩耗したら交換する決まりになっている。

 南アフリカで盗難に遭った架線はほとんどがトロリ線であった。その理由は、電気を流しやすいよう、トロリ線の素材には銅が用いられているからである。銅は世界的に高騰が続いており、銅製品であるトロリ線の価格も高額だ。2019年の経済産業省の統計によると、国内の銅線価格は、トロリ線のように絶縁されていない裸線の場合、1m当たり790円。供給量が決まっている貴重な資源だけに、中古でも良品なら1m当たり830円ほどと新品より高い。国内で使われている直径15.5mmのトロリ線の場合、1m(重さ約1.5kg)当たりのおおよその価格は新品で1185円、中古の良品なら1245円となる。

 報道によると、南アフリカでトロリ線を盗んだ人たちの売上は、一晩だけでも20万円を超えていたという。日本の中古良品相場に換算すると、重さにして246kg分。トロリ線が1m当たり1.5kgだったとすると、164m分を盗んだことになる。とても長いように思うだろうが、日本の新幹線の場合、架線を支える電柱は40~50mほどの間隔で建てられていることを考えると、電柱4本分程度に過ぎない。今回、南アフリカで盗まれた架線全体の長さは公表されていないが、約2200kmの路線に影響が出たというから、損失額もかなりの金額になったことだろう。

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