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起業の天才・江副浩正氏が実践した「アメリカ型経営の真逆の経営術」

2021年3月12日 16:00 週刊ポスト

『起業の天才 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』著・大西康之
『起業の天才 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』著・大西康之

【書評】『起業の天才 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』/大西康之・著/東洋経済新報社/2000円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)

 本書は、リクルートの創業者、江副浩正の伝記だ。500ページ近い大部であるにもかかわらず、あっという間に読めてしまう。よく練られた構成とぜい肉の一切ない筋肉質の文章が、スピード感をもたらしている。もちろん、江副浩正という素材の影響も大きい。リクルート事件で、歴史から葬られてしまったが、江副は間違いなく戦後最高の起業の天才だからだ。

 もし40年前に戻れるとしたら、私が就職したいと思う企業はたった一社しかない。それがリクルートだ。30年前、私の勤めるシンクタンクは、リクルート本社のすぐ近くにあって、一緒に仕事もしていた。『少年マガジン』を小脇に抱えて出勤する私に、リクルートの社員が声をかけてきた。「森永さん、いつまでマガジン読んでるんですか」。振り向くと、彼はこう言った。「ボクはもうコロコロコミックに変えましたよ」。

 その後リクルートは、ポケモンカードで大儲けをした。厳しい成果主義であるのと同時に、リクルートの社員は発想が柔軟で、主体的に動く。そして何より仕事を楽しんでいる。その理由が本書を読んでよく分かった。

 江副にはカリスマ性がない。本人もそれが分かっていた。だから、有能な人材を集め、仕事を丸ごと任せたのだ。経営者が強いリーダーシップで会社を牽引するアメリカ型経営の真逆だ。江副の役割は、ビジョンを示すことだけだ。

 ただ、晩年に近づくと、江副にカリスマ性が生まれた。それがリクルート事件の遠因になったのだと私は思う。江副がこだわった安比高原のスキーリゾート開発の際、温泉施設整備を求めた江副に「温泉は出ません」と社員が抵抗した。その時、江副はこう言ったそうだ。

「だったら、マントルまで掘れ」。

 本書は江副の伝記にとどまらず、経営学書としても価値が高いと思う。命令や人事評価で人を動かすのではなく、本人が面白いと感じる仕事を与えることによってビジネスを成功させる。その手法を日本で一番うまく実践したのが江副だったからだ。

※週刊ポスト2021年3月12日号

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