大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

日本経済の起爆剤となる「メガリージョン」 新潟を世界的リゾートにする方法

 その方策の一つは、佐渡島への架橋である。佐渡島の魅力は海・山・川・湖などの豊かな自然と美味しい魚介類や酒であり、本州とつなぐ橋を建設すれば両岸で観光や産業が大きく発展するはずだ。しかし、佐渡島と本州の最短距離は約32kmで、これまで日本の最も長い橋は東京湾アクアライン「アクアブリッジ」の4.424km。中国には全長55kmの世界最長の「港珠澳大橋」があるが、青函トンネル以降の日本は世界記録に挑戦するような大土木工事は見当たらず、佐渡への架橋も実現は難しいだろう。

 それでも地経学的に見ると、新潟県の優位性はいろいろある。たとえばロシアが近いので、新潟に空路や海路で来たロシア人観光客をそのまま佐渡島に誘導し、そこで島内のみ有効な「到着ビザ」を発行する。これはトルコ・アンタルヤやエジプト・シャルムエルシェイク、タイ・サムイ島のようなやり方だが、ロシア人の好むマリンリゾートになる可能性があると思う。

 新潟で最もポテンシャルが高いのは越後湯沢だろう。越後湯沢エリアにはスキー場が11か所、マンションが57棟もある。マンションの部屋は安く売りに出ている物件も多い。東京駅からは上越新幹線で最短1時間9分だ。やり方次第で、世界的スキーリゾートを目指すことができると思う。

 ただし、越後湯沢の問題はスキー場も宿泊施設も飲食店も経営がバラバラなことである。これは利用者にとって非常に不便だ。地域全体を集約し駅周辺を一括的にプロがマネジメントすれば、町としての魅力が飛躍的に増すのではないか。

 あるいは、金属洋食器で有名な燕市。技術力ではドイツ・ゾーリンゲンやイギリス・シェフィールドなどに引けを取らないはずだが、実際に行ってみると工場と物流施設ばかりでヘソになる見どころがない。包丁やカトラリーを買える店や飲食店もごく少ない。長野県の小布施や中山道の馬籠・妻籠、岐阜県の飛騨高山のように歴史を体感できる町並みを再現したり、燕の伝統的な技術力を「見える化」した施設を整備したりしなければ、観光客は来ない。知名度の割には、もったいない機会損失だと思う。

 地域経済発展の鍵は世界中から「人、カネ、企業、モノ、情報」を集めることだが、そのためには新しいビジネスに対する規制を完全に撤廃しなければならない。それができない限り日本が再び繁栄することはない、と心得るべきなのである。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2021~22』(プレジデント社)など著書多数。

※週刊ポスト2021年7月9日号

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