真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

新政権「ご祝儀相場」はどこへ?日本株を翻弄する海外市場の悪材料の数々

米国の債務上限問題は年末に再燃も

 もう一方の経済大国である米国でも問題が噴出している。世界的な株高を演出してきたFRB(連邦準備制度理事会)がテーパリング(金融緩和の縮小)の開始を示唆するなか、天然ガスや原油をはじめとした資源価格が高騰。米国のインフレ懸念が一時的なものではなく長期化することが警戒され、インフレ対策として「利上げ」が早まるとの観測も浮上している。

 また、「債務上限問題」も懸念される。米国では政府債務の上限が法律で定められており、上限を超えそうな場合には、議会の承認を得て上限の引き上げが求められる。引き上げられない場合は国債を新規発行出来なくなり、デフォルトに陥ることになる。米議会上院は10月7日、債務上限を12月3日まで引き上げることで合意し、短期的なデフォルト懸念は回避されたが、根本的な打開策を巡る与野党との対立は続いている。アフガニスタン撤退でバイデン政権の基盤が揺らぎつつあるなか、年末に問題が再燃すれば、経済への打撃は避けられないだろう。

 米中がそれぞれ抱える問題を行動経済学の観点で考えてみよう。中国には「不動産バブルはまだ終わらない」という幻想があったのではないか。株価の最高値更新が続いてきた米国でも、「株高はまだまだ続く」という思い込みがあったように思える。行動経済学ではこうした思い込みを「心の慣性の法則」と言うが、両国だけでなく世界的にもそうした心理が働き続けてきたフシがある。しかし、そうした状況はいつまでも続くわけがなく、数々の問題が噴出しているのが実態である。

 米中2大国の問題は、「世界の景気敏感株」と言われる日本株に大きな影響を及ぼすのは言うまでもない。新型コロナウイルスの感染者数が減少傾向にあり、「緊急事態宣言」が解除され、支持率が低迷していた首相も交代。加えて1990年以降、「衆院選期間中は株価が上昇」というアノマリーもあって、国内だけを見れば「好材料」が目白押しに映るかもしれない。しかしその一方で、海外の悪材料がこれだけ揃っているようでは、国内の材料だけで現在の株安をひっくり返すことはそう簡単ではなさそうだ。

 このままでは、岸田新政権への「ご祝儀相場」どころか、日経平均株価が2万7000円を割ってもおかしくない。外部要因がさらに悪化すれば、さらなる下落も予想されるだろう。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。最新刊は『ゲームチェンジ日本』(MdN新書)。

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