大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

“教員が忙しすぎ”問題 「答えを見つける教育」への転換で教員数は半分にできる

答えを覚えるのでなく「見つける」「考え出す」に

 拙著『経済参謀』(小学館)でも詳述したように、21世紀は「答えがない時代」であり、知識の詰め込みや暗記がメインの勉強は、ますます意味をなさなくなっている。これからの教育は、「知ること」よりも「考えること」が重要で、生徒の「考える力」を育むことにこそ時間を使うべきなのだ。

 しかも、いまや学習のほとんどはパソコンやタブレット端末、スマホに置き換えることができるから、それらをフル活用すれば授業の効率は飛躍的に高まり、在宅学習も可能になる。その代わり、現在の日本の教育に欠けている論理学やリーダーシップ、EQ(心の知能指数)などの科目を新たに加えなければならない。

 ただし、それで教員の負荷が増えることはない。「答えを覚える」教育から「答えを見つけていく」「答えを考え出していく」教育に転換し、学習のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めると、むしろ教員の役割は小さくなっていく。基本的に教員は、学習指導要領に基づいて答えを教える「先生」ではなく、クラスのみんなで答えを見つけていく時の「ファシリテーター(促進者)」や、児童・生徒のカウンセラーにならねばならないのだ。

 結局、日本は金太郎飴のように均質な人材が必要だった20世紀の工業化社会の教育のまま、新しい教科を追加した膨大な学習指導要領に基づいて知識を丸暗記させようとするから、教員が足りなくなるのである。「答えを見つけていく」21世紀の教育にシフトするとともに、学習のDXを進めれば、教員の人数は現在の半分以下で済むだろう。

 しかし、いま文科省がやっていることは、それとは正反対だ。リカレント教育で新しい知識を学習しなければならないのは、文科省の役人と中央教育審議会(文科相の諮問機関)のお歴々なのである。このまま軌道修正できなければ、21世紀に20世紀型の人間を大量生産する日本はお先真っ暗だ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年6月24日号

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