大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

岸田首相肝煎りの「資産所得倍増」&「デジタル田園都市」構想に全く期待できないワケ

キャッチコピーありきだから中身が後付けでスカスカ

 また、政府は今夏、「Digi田(デジデン)甲子園」を開催する。「デジタル田園都市国家構想」実現に向けた動きを全国で加速させるため、構想に関する地域や企業の取り組みのうち、とくに優れたものを表彰するというが、そんなイベントに効果があるとは思えない。

 そもそも「デジタル田園都市国家構想」はコンセプトが理解不能だ。地方でもWi-Fiや5G(第5世代移動通信システム)などのデジタルインフラを整備するのは当たり前だが、それで地方と都市の差が縮まった例は、私が知る限り、世界中で見たことがない。どこの国でも人や企業は大都市に集中し、地方で栄えているところは地方であるがゆえに栄えている。

 たとえば、フランスのマルセイユにデジタル化を加速しようという動きはない。昔のままの古い街並みや港湾都市の美しい景色、この街発祥の名物料理ブイヤベースなどを求めて大勢の観光客がやってくるからだ。

 もともと「デジタル田園都市国家構想」は、岸田首相と同じ「宏池会」の大平正芳首相が提唱した「田園都市構想」を下敷きにしている。同構想は、都市の活力と地方のゆとりを結合して均衡がとれた多彩な国土の形成を目指すものだったが、高速交通網がほぼ全国に整備された今も大都市と地方の格差は拡大している。

 また、「令和版所得倍増計画」も、1960年に「宏池会」の池田勇人内閣が発表した「国民所得倍増計画」をもじったものだ。当時は高度成長期の真っただ中だったので、GNP(国民総生産)を10年間で2倍にするという目標は軽々とクリアされた。しかし、低成長時代の今は「所得倍増」はもとより「資産所得倍増」もリアリティがない。

 つまり「デジタル田園都市国家構想」も「資産所得倍増プラン」も派閥の大先輩の政策の“パクリ(二番煎じ)”であり、まずキャッチコピーありきだから中身が後付けでスカスカなのだ。そんな言葉遊びの思いつき政策が首相肝煎りの目玉政策というのは、300%間違っている。アベノミクスにより10年間の平均で実質GDP2%成長を、と言って9年経っても実現できなかった自民党の伝統よろしく、たとえ“黄金の3年”が訪れても、無為無策のジリ貧日本となることはほぼ確実な情勢だ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年7月22日号

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