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ロシア下院議長が米国に返還要求? 150年前、アラスカはなぜ「720万ドル」の安値で売却されたのか

ロシアがアラスカを売却した理由とは?(Getty Images)

ロシアがアラスカを売却した理由とは?(Getty Images)

 ウクライナ情勢が混迷を深めるなか、ロシアと国境を接する国々が対応を急いでいる。大陸が異なるアメリカも、実はアラスカでロシアと直に国境を接しており、例外ではない。7月には、ロシア下院議長からアラスカの「返還」を示唆する発言が飛び出した。歴史作家の島崎晋氏が、ロシアがアメリカにアラスカを売却した経緯を紹介する。

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 ロシア軍によるウクライナ侵攻が開始されてから、欧州を中心に動きが慌ただしい。6月にはフィンランドとスウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)加盟へ向けての手続きが開始され、7月にはラトビアで兵役義務の再導入が公表された。どちらもロシアを警戒しての動きで、「ウクライナの二の舞は御免」との気持ちがよく表れている。

 ロシアと国境を接する国すべてが不安を強めるなか、ロシアの政治家にも無責任な発言をする者がいる。プーチン大統領の側近として知られ、ロシア下院の議長でもあるビャチェスラフ・ボロージンが、ロシア高官らとの会議の席上、「彼ら(米連邦議会)がロシアの在外資産を横取りしようとするなら、ロシアが返還を求めるべきものもあることを認識すべきだ」と述べたというのである(『ニューズウィーク日本版』7月7日配信)。

 米露関係史に多少通じていれば、ここにある「ロシアが返還を求めるべきもの」がアラスカを指すと気づくだろう。同記事では、米連邦議会図書館の記録に照らし、〈アラスカはかつてロシアの一部だったが、1867年3月30日にアメリカが720万ドルで買収した。当時のウィリアム・シューワード国務長官にちなんで「シューワードの愚かな投資」だとか「シューワードの冷蔵庫」と揶揄されたが、1896年にアラスカでゴールドラッシュが始まると批判の声は吹き飛んだ。アラスカは準州を経て、1959年に正式なアメリカの州となった〉と説明する。

 ウクライナへの侵略が開始されて以降、ロシアとアメリカが国境を間近に接する地域(お互いの領土に属する島は数キロメートルしか離れていない)であるアラスカに注目が集まっている。

 1776年の独立宣言以来、宗主国イギリスや先住民との戦争を経て1783年に独立を果たしたアメリカ。建国当時は東部13州からなっていたが、それからの領土拡大は戦争もしくは買い取りによって行われた。買い取りと言えば多少聞こえはいいが、先住民が相手の場合は恐喝と詐欺の合わせ技を常套手段としたことが知られている。19世紀以降、フランスやスペイン、メキシコから領土を買い取る場合も、戦争か軍事的圧力を加えた上でのことが多く、一度として損な買い物をしたことはなかった。

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