ビジネス

立ち食いそば屋「10円の値上げ」で常連客が消える 日本の貧困化で年金生活者の苦境

「10円の値上げ」が家計に重くのしかかるワケは(イメージ)

「10円の値上げ」が家計に重くのしかかるワケは(イメージ)

 値上げラッシュが家計を直撃するなか、肝心の収入が増えなければ日本人の貧困化はどんどん進み、大多数だったはずの中間層までもが貧困層に陥る「一億総下流社会」に突入してしまう──経済ジャーナリストの須田慎一郎氏は、新刊『一億総下流社会』(MdN新書)でそう訴える。須田氏が「貧しい国ニッポン」の実態をあぶり出す。【前後編の前編】

 * * *
 東京の下町、JR山手線の日暮里駅東口から徒歩3分ほどの路地裏に、地元では人気の立ち食いそば屋がある。24時間営業で、年始お盆以外は年中無休。何より安い。かけそば(普通)が230円で、他の店なら一人前近い量の「小盛り」はなんと120円。極太でコシの強い名物の「太蕎麦」も普通が280円で、小盛りは150円。トッピングも「ジャンボゲソ天」が170円、器を覆うほどの「ジャンボかき揚げ」が200円などと激安ぶりが目を引く。それゆえ、昼時ともなれば行列が絶えない、知る人ぞ知る人気店となっている。

 そんな“庶民の心強い味方”である同店も、世界情勢とは無縁ではない。いまでもこれだけ安いのだが、実は2021年末に、全商品一律10円の値上げをしていたのだ。コロナ禍で世界的なサプライチェーン(供給網)が混乱し、麺類の原料となる小麦粉や食用油などの値上げが止まらず、そばの値上げに踏み切らざるを得なかったという。

 人によっては「たった10円」ととらえられるかもしれないが、その「10円」が重くのしかかる人もいる。

 筆者の知人に、このそば屋の常連客がいる。彼は一度目の結婚に失敗して、転職も重なったことで給料もさほどもらえないなか、養育費の負担などもあり、ぎりぎりの生活をしている。そんな彼のささやかな楽しみが、休日に早起きして、このそば屋で食べることだった。彼はこういう。

「よく顔を合わせるじいさんがいたんだけど、値上げ後に『最近、あのじいさん、見ないね』と店員に聞いたら、『値上げしたら来なくなっちゃったみたいです』というんだよ」

 年恰好を考えると、常連客だった高齢者はおそらく年金生活者なのだろう。公的年金の支給額は現役世代の所得に応じて変動するため、日本のサラリーマンの給料が上がらなければ減額されてしまう。実際、年金は今年4月から0.4%減額され、今後も目減りは必至とされている。

 そうした状況下では、「たった10円」とはいかない。この常連客にしてみれば「10円も値上げされたら、もう食べに行けない」という判断にならざるを得ないだろう。いくら自分が食べたいと思っても、年金収入が今後も減っていくことがわかっているから、どうしても計画的に使わないとならない。そば一杯10円の値上げなら10杯で100円になるという計算をしてしまうと、手を出せなくなってしまうのかもしれない。

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。