大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

「働かないおじさん」問題の解決へ 日本企業は「ジョブ型雇用」に転換できるか

50代の「働かないおじさん」問題をどうやって解決すべきか(イラスト/井川泰年)

50代の「働かないおじさん」問題をどうやって解決すべきか(イラスト/井川泰年)

 近年ではグローバルに活躍できる人材育成のため、「ジョブ型」の雇用制度が注目されている。欧米企業では一般的な雇用制度で、雇用主が求める職務内容(ジョブ)に基づき、人材の採用を行っている。

 一方、日本企業では新卒者を大量一括採用し、終身雇用を前提に様々な仕事を経験させる「メンバーシップ型」の雇用制度が一般的であった。働く意欲が乏しく十分な仕事の成果を上げられない「働かないおじさん」を生み出しているのは、こうした日本の雇用制度が影響しているとの指摘もある。

 では、日本にジョブ型雇用が根付く可能性はあるのか。そうなった場合、日本の雇用環境はどう変わるのか。実際にジョブ型雇用のコンサルタント会社でも長く働いた経験のある、経営コンサルタント・大前研一氏が解説する。

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 日本でも昔からジョブ型の職種はある。たとえば、生命保険会社のセールスレディや自動車のセールスマンだ。彼らは成功報酬で、年齢も経験も関係ない「売った者勝ち」の世界だから、成果を上げられなければ食い詰めるだけである。

 もちろん、すべての仕事を成功報酬にはできないが、日本企業が競争力を回復して長期低迷から脱するためにはメンバーシップ型からジョブ型に転換するしかない。しかし、それは至難の業だ、実際、日立製作所、ソニーグループ、富士通、資生堂、NTTなどがジョブ型を導入しているが、欧米企業並みに成功している企業は見たことがない。

 なぜか? ジョブ型の本質を理解していないからだ。

 ジョブ型を実行するには、社員1人1人の仕事を的確に評価し、具体的かつ詳細な資料を作らなければならない。ところが、日本企業の場合、人事考課表を覗いてみると、ほとんど空っぽだ。「よくやった」「頑張っている」くらいしか書かれていないことが多い。S~Dなどの段階評価をしている企業もあるが、それだと社員は上司が自分の仕事をどういう基準で評価しているのか、来年に向けてどうすれば評価が上がるのか、全くわからない。

 逆に言うと、上司は自分の時間のかなりの部分を、部下の評価をきっちり記述すること、それを本人に説明することに使わなければならない。期初に年間目標を設定し、半年後に進捗状況を確認して追加レビューする。1年後に成果を見て、公平にヒアリングをした上で次の年の給与を決める。目標に達しなければ解雇する。そこまでの権限を上司に与えないと、ジョブ型は機能しない。採用時の条件がそうなっているから解雇しても文句は言われない、という制度なのだ。

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