中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

“本当の締め切り”間際に「危機感シンクロ現象」が発生する仕事相手の好相性

「4分遅れたらこりゃ寝てるわ」

 その延長線上に「2段階危機感シンクロ現象」も存在します。ある会社の仕事で、2週間に1回、11時から行われる定例会議の際は、会議前に「この2週間で社会的に話題になったものと社会のトレンドをまとめて提出する」という宿題があります。その際、Zoom会議用資料をまとめる担当者と私の間では「10時25分」という締め切りタイムがなんとなく共有されています。

 10時25分、あと数分で資料は終わる! というタイミングで「いかがでしょうか……」というメールが来ると、こちらは「分かってます、分かってます!」と言いたくなり、慌てて10時27分ぐらいにメールを送る。すると「ありがとうございました! こちらでまとめておきます!」と来るわけです。

 さらに、やっとのことで資料を作成して送ったことで、私は疲れ果てて少し寝てしまうことがあります。そうすると会議開始の11時から4分経過したところで電話が来るんですよね。これは「4分遅れたらこりゃ寝てるわ」ということを先方が分かっているからに他ならない。

 もちろん、いつも仕事がギリギリになるのは褒められたものではないのですが、こうした仕事相手との関係性というのはなかなか素敵だな、と思うのです。思い返せば若い頃は、「本当の締め切り」の1週間前を提示されることが多かったです。それはそこまで自分が信用されていなかったことの表れ。本当の締め切りを伝えてしまうと穴が空いてしまうかもしれないと発注主は懸念していたのでしょう。しかし、今はせいぜい1日前の締め切りを伝えてくれることが増えました。

 そういった意味で、「危機感シンクロ現象」が発生する仕事人同士は、理想的な関係性を築いているのかもしれないな、と思うようになりました。発注側は「この人は本当に取り返しがつかないタイミングは分かっている」と思い、受注側は「この人は私のアウトプットのクオリティを直すのにそれほど時間がかからないことを知っている」と思える。私自身はそんな取引先に恵まれて幸せです。いつも納品がギリギリになって申し訳ありません。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。

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