仕事をしていると必ず存在するのが「締め切り(納期)」だ。これがなくては仕事は完結しないし、お金も発生させられない。これまでの25年の社会人生活で何万本もの締め切りを経験してきたライター・ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、この10年ほど、本当の締め切りが近づくと、発注側と受注側の間で「危機感シンクロ現象」が発生することが増えたという。いったいそれはどういうものか、中川氏が解説する。
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キャリアが長くなると、「超常現象ってあるのかな……。いや、私はオカルトを信じてはいませんが」と思うことがあります。きれいな言葉で言えば「以心伝心」ですが、発注主と受注者の間で「もう、これ以上納品が遅れるとヤバいことになる」というギリギリのタイミングの危機感が一致するんですよ。
私の仕事の場合、ライターということもあり、「掲載日時」が決まっていることが多いです。あとは、週刊誌の連載の場合は、「文章を読んでイラストを描く相棒に、その時間をできるだけ多く獲得させる」「校閲担当者のチェック日時に合わせる」「印刷会社への入稿タイミングを守る」などがあるため、締め切りはかなり厳格です。
そのため、発注主は1日程度のバッファーをもって締め切りを設定して伝えてきて、本当にヤバい状況になりにくい状況を作るわけです。仮に私がもはや動けないぐらいの風邪を引いてしまった場合でも、1日ぐらいは待ってくれたりします(その後、校了までの時間がむちゃくちゃ大変になりますが)。でも、そんな非常事態でもないのに、「本当にヤバい日時」が近づいてくると、そこはさすがにメールで「覚えていますか?」「大丈夫ですか?」「早く送ってください」といったことを伝えられます。それに30分返事をしないと今度は電話が来ます。
これは発注主が嫌がらせをしているというわけではなく、安否確認の意味合いもあるし、本当に納品されない場合の穴埋め策を講じるために必要な手順です。そして、この「本当にヤバい日時」というのはこちらも分かっているわけです。
そうなると、こちらは「先方が電話をしてくるであろう日時」も把握できるため、その3分ぐらい前には納品するようにしています。ここで不思議なのが、特定の仕事相手との間には「危機感シンクロ現象」というものが発生することです。
別に示し合わせたわけでもないのですが、たとえば「毎週金曜日14時30分」などの時間が無意識のうちに共有されている。こちらは14時28分に送ります。すると相手は14時29分に「まだでしょうか」とメールを書いてくる。まだ「新着メール」を見ていないため、私が送ったメールが届いたとは思っていません。こちらは「先ほど送りました!」と返事をすると相手からは「確かに拝受しました! ありがとうございます」と来ます。これが「危機感シンクロ現象」です。