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1997年、韓国はなぜ経済破綻したのか? 韓国映画から読み解く「アジア通貨危機」の本質

いち早く通貨危機を察知し儲けに走る金融マン(ユ・アイン)も登場する(c)2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

いち早く通貨危機を察知し儲けに走る金融マン(ユ・アイン)も登場する(c)2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

IMFによる「救いの手」が意味するもの

 では、この1997年の韓国の経済は、ヒロインが言うように、借金による放漫経営でボロボロだったのだろうか。そうだとするとファンダメンタルズ論が該当し、資金を引き上げられた原因は韓国にもいくぶんあることになる。

 しかし、実態はそうでもなさそうだ。韓国の実質GDPは6〜7%で成長していて、財政も均衡していた。経常収支は1996年こそGDP比4%の赤字だったけれど、それ以前は1%から2%程度でマクロ経済環境は悪くなかったのである(宮崎正人著『教養としての金融危機』参照)。ということは、タイの通貨危機を見てビビった投資家がパニックを起こしたというパニック論が正しそうだ。実際、ハーバード大(当時)のジェフリー・サックスはパニック論を支持、ジョセフ・スティグリッツ世銀上級副総裁・チーフエコノミスト(当時)もほぼパニック論に与している(荒巻健二著『アジア通貨危機とIMF—グローバリゼーションの光と影』参照)。

 韓国の人たちにとってはとんだ災難だが、本映画では、この危機をチャンスと見る人物が描かれる。大手金融機関に勤めていたユン・ジョンハク(ユ・アイン)は、危機の匂いを嗅ぎつけると退職してコンサルタント会社を立ち上げ、韓国ウォン急落に賭ける投資を顧客に持ちかける。つまり、自分が生まれ育った国が没落するのに乗じて大儲けしようとするのである。

 似たような行動をとる韓国人は官僚の中にもいる。財政局のパク・デヨン次官(チョ・ウジン)は、この危機を回避するにはIMF(国際通貨基金)に助けを求めるしかない、と提案する。IMFは国際収支が悪化している国への資金融資を目的としているわけだから、まともな意見に聞こえるが、ヒロインはこれに断固として反対する。なぜか。

 IMFに借金をすれば、韓国は経済的に国を乗っ取られたも同然になると考えるからである。ではどこに乗っ取られることになるのだろうか、この映画ではIMFはアメリカの手先のように描かれている。つまり、IMFに金を借りるということは、経済的にアメリカのコントロール下に入ることを意味する。そして、「IMFに頼るしか選択肢はない」と言って、IMF案をなんとか飲ませようとする財政局次官は、IMFのプログラムを導入して、韓国社会を構造改革する腹積もりであることが明かされる。そして映画のラスト付近では、財政局を退いて金満家になった彼の姿が描かれる。

 このふたりは自分さえ儲かれば、自分が生まれ育った国、自分が一緒に育った仲間が路頭に迷ってもかまわないという人間である。グローバリゼーションがこういった人間を産むことは、前掲のコラムでも書いた。

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