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バブル期「地下金融の帝王」の華麗なる交友録 英サッチャー首相来日時には長男と極秘会食

街金融アイチを率いて「バブルの王様」と呼ばれた森下安道氏

街金融アイチを率いて「バブルの王様」と呼ばれた森下安道氏

 G7首脳の家族がお忍びで会った相手が、「地下金融の帝王」として知られる人物だった──。今では考えられないことが、バブル期の日本にはあった。1989年、英首相マーガレット・サッチャーの来日時、その長男が極秘会食した相手は、貸付総額1兆円超の街金融アイチを率いた森下安道(1932-2021)だったというのである。『バブルの王様 森下安道 日本を操った地下金融』を上梓したノンフィクション作家・森功氏が秘話を明らかにする。(文中敬称略)

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 1979年5月4日、英国初の女性首相に就いたマーガレット・サッチャーは、徹底した市場競争原理による経済改革の必要性を訴え、自由な競争経済が世界に広まった。今でこそ、その極端な競争が新自由主義と批判されるが、ある時期の英国にとってそれは必要だったといえる。

 サッチャーは「鉄の女(Iron Lady)」と異名をとり、英国病と揶揄された経済を立て直した。その鉄の女が1989年9月、日本にやって来た。首相の海部俊樹や外相の中山太郎と会談する多忙な外交日程のさなか、同行した長男のマーク・サッチャーは、ある日別行動をとった。お忍びの晩餐会に出かけるためだ。実はその場が田園調布にある森下安道邸であった。ニューヨークで森下の道案内をしてきた新発田(しばた)潤一は、この日たまたま一時帰国していて、晩餐会に呼ばれたという。

「あのときは森下会長から、『新発田君、通訳を頼みたいから、家に来てくれ』と電話をもらいましてね。会長の指示は断れません。それで急きょ森下邸に向かったんです」

 こう打ち明ける。

「森下会長はイタリアでヘリコプターを購入したときの仲介者を通じて、マーク・サッチャーと知り合ったと聞いています。そのサッチャーの息子が来るというので、あの日の森下邸の周辺警備は大変な厳しさでした。万が一のことがあったら、国際問題に発展しかねない。しかも、世間にはいっさい公表していない誰も知らない極秘の食事会ですからね。田園調布警察署から大勢の警察官が派遣され、屋敷の周りを取り囲んでいました」

 森下と欧米の社交界とのつながりについてはこれまでにも書いてきた。ニューヨークでは雑誌の発行人であるグローリア・キンブリが森下の愛娘をインターナショナル・デビュタント・ボールにデビューさせた。それとは別に欧州における社交界ネットワークづくりに貢献したのが、ガドー・カルディーニというイタリア人だという。森下はカルディーニを通じ、サウジの武器商人であるカショギをはじめ、英国最古の百貨店「ハロッズ」や「ホテルリッツ」のオーナーだったムハマド・アルファイドなどを知り、懇意にしてきた。アルファイドは英皇太子妃のダイアナとともに交通事故死したドディ・アルファイドの実父である。

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