店内「弟子養成機関」という仕組みは三方よし(イメージ)
寿司屋といえば、弟子入り修業が常識とされている業界の代表格。「飯炊き3年、握り8年」ともいわれ、修業年数は10年以上にわたることもあるという。
辛いイメージも伴う“修業”というワードだが、名店と呼ばれるところでも新たな取り組みが始まっている。店の一部に「弟子養成機関」を作り、大将のお墨付きを獲得した弟子が、修業期間のうちから常連に料理を出す機会を設ける。これが客・弟子・師匠の全員が得する仕組みになっている。まさに「名店が名店を生む」というサイクルを支えているという。
グルメを一番の趣味とし、数々の飲食店から「一流店」の理由を探し出した、レストランプロデューサーの見冨右衛門氏の著書『一流飲食店のすごい戦略1万1000軒以上食べ歩いた僕が見つけた、また行きたくなるお店の秘密』より、一部抜粋・再構成してお届けする。
お客様・弟子・師匠、みんなが得する「弟子養成機関」という仕組み
有名店で修業した人が独立して自分の店を持つ。これは寿司店などの徒弟制度の常道ですが、近年はまた違った形も見られるようになってきました。ひと言でいうと、ある程度、修業が進んだところで修業店内に弟子の営業スペースをあてがい、お客様に料理を出すことができるというやり方。いってみれば「店内独立」――独立準備のための弟子養成機関です。
ここからは店によりますが、弟子の営業スペースの価格は、師匠のそれよりも低めに設定してあるところが多い。といっても、そこで営業できるのは師匠が認めた弟子だけですから、師匠のお墨付きがあるようなものです。
弟子は身ひとつで店を始める前に常連さんに料理を出す機会をもらい、修業の仕上げと独立に向けた顔見世ができる。お客様にとっては予約が取りやすくなり、なおかつ、その店の通常価格よりも少し安めで、師匠が認めた腕前の美味しい料理が食べられる。
そして師匠は、自分ひとりで切り盛りできる以上の客数が見込める。単価は自分より低めでも、店内にもう一人、自分が育て上げた稼ぎ手を持つことで、無理なく利益アップを見込めるのはメリットです。
このように、みなが得するのが、「弟子養成機関」という仕組みなのです。
弟子の営業スペースは、もちろん一代限りではありません。そこを任されていた弟子が卒業したら次の弟子が任され、その弟子が卒業したら、また次の弟子が任される。この「修業→店内独立→独立」というサイクルが順繰りに回り、「名店が名店を生む仕組み」が出来上がっているのです。
こうして、その店の遺伝子を確実に引き継ぐ店が増えていくのは、常連客にとってもうれしいこと。「独立する前から応援していた」というのは、メジャーのビッグアーティストを「私はインディーズのころから応援していた」というファン心理に通じるところもあるかもしれません。
それはともかくとしても、独立準備のための弟子養成機関は、お客様・弟子・師匠、みんなが得する仕組みといっていいでしょう。