YouTubeチャンネル『有隣堂しか知らない世界』のヒットの背景は
創業116年目、神奈川県を中心に約40店を展開する書店「有隣堂」の公式YouTubeチャンネル『有隣堂しか知らない世界』が注目を集めている。企業YouTubeとしては音楽や映画、ゲームなど、エンタメコンテンツを保有するチャンネルが人気になりやすいなか、登録者数は5年前の300人弱から現在約40万人に、総再生回数は約1億回以上と伸長している(2025年8月末時点)。
ヒットの仕掛け人は、動画クリエイター・ハヤシユタカ氏。泣かず飛ばずだった同チャンネルを2020年にリニューアルすると、パペットキャラクター「R.B.ブッコロー」の歯に衣着せぬ物言いと知的好奇心を満たしてくれる内容が話題となり、現在ではさまざまな企業からも「出たい!」というオファーが届くまでになったという。
企業が運営するYouTubeチャンネルも当たり前という激戦状態のなかでハヤシ氏が目指したのは「誰もがもっと見たくなる“面白い”企業チャンネル」。著書『愛される書店をつくるために僕が2000日間考え続けてきたこと キャラクターは会社を変えられるか?』を上梓したハヤシ氏に、企業チャンネルにおける「面白さ」を聞いた。【全3回の第1回】
“建前”と無縁のキャラクター「R.B.ブッコロー」
同チャンネルが更新する動画は、基本的に書籍・雑誌・文房具などの商品を紹介し、それにR.B.ブッコロー(以下「ブッコロー」)がツッコミを入れていくスタイル。「有隣堂」のチャンネルとしてこだわったのは、「知的好奇心」と「素直さ」だ。
「有隣堂には知識が豊富だったり、特定のジャンルを偏愛していたりするスタッフが多い。そこから、深い知識を持っている人が登場し、視聴者の知的好奇心を満たすという方向性が固まりました」(ハヤシユタカ氏、以下同)
有隣堂が発信する内容のキーワードとして「知的好奇心」は納得感があるが、「素直さ」とはどういうことか。ハヤシ氏は、人の関心を惹きつける重要要素として「ギャップ」を挙げる。
「企業公式が発信する情報って、基本的に全部“建前”。自社および自社商品に関するネガティブな話は発信しないという大前提がある。そうした認識が視聴者にも浸透しているなかで、逆に、“素直”な本音の情報を出すのは1つのギャップになると考えました。しかもベンチャー企業ならまだしも、老舗書店という堅いイメージの企業が建前を取っ払うのは、2つめのギャップになる」
R.B.ブッコローの生態
とはいえ、知的好奇心を満たすコンテンツを素直に提供していくだけでは味気ない。そのスパイスとして、“建前”と無縁のキャラクター・ブッコローが誕生した。
“ガラスペンの世界”を取り上げた動画において、有隣堂で取り扱うガラスペンに対して「ぶっちゃけAmazonで買った方が安くない?」と言い放つなど、あっけらかんとしたブッコローの性格は、“公式が自社サゲを許している”という3つめのギャップを生み出した。ブッコローファンの視聴者も多く、「可愛い見た目なのに、ストレートな物言いなのがツボ」「言葉選びにセンスがあって推せる」という声があがるなど、ズケズケと言うキャラは動画に欠かせない存在となっている。