ナフサから作られる製品は広範に及ぶ(写真:イメージマート)
イラン情勢の緊迫化によって、「ナフサ危機」が引き起こされている。その影響は広範な業界に及んでおり、たとえば食品業界などでは、プラスチック容器不足で商品の販売休止を決断する企業も出てきている。高市早苗・首相は4月5日に自身のXで「少なくとも国内需要4カ月分を確保している」と、ナフサ危機においても安定供給がされていることを強調しているが、現場からは悲鳴も聞こえてくる。両者の言い分の違いはどこから来るのか、イトモス研究所・小倉健一氏が解き明かす。
「国内需要の4ヶ月分確保済み」という政府の論理
中東情勢の悪化により海峡が事実上封鎖され、世界のエネルギー市場に大きな波紋が広がっている。日本国内において実体経済へ強い影響を及ぼした事象がある。プラスチックや塗料など、あらゆる化学製品の基本となる材料「ナフサ」の供給危機である。
現在、不思議な現象が起きている。
高市早苗政権はナフサについて「足りている」と宣言した一方で、民間企業は「現場にモノが届かず生産が停止している」と悲鳴を上げている。
結論から言うと、これは双方が嘘をついているわけではない。両者の間には、見ている経済活動の階層の違いによる構造的な乖離が存在する。複雑に絡み合った供給経路の中で何が起きているのか、紐解いていこう。
まず、「国内需要の4ヶ月分確保済み」という政府の論理を見てみよう。政府の主張は、船で運ばれてくる輸入分や製油所にある原料在庫と、すでに加工された中間段階の製品在庫を合計すれば、当面を乗り切るための物質量は日本国内または管理下に存在しているという計算である。過去のオイルショック時に発生したようなパニック購買を未然に防ぐため、総量としてのエネルギーバランスを可視化した対応は、一定の合理性に基づいていると言える。
しかし、ナフサを消費する最前線では全く異なる風景が広がっている。データ上は存在するはずの総量が個別の工場の生産ラインに届かず、広範な産業で供給停止が引き起こされている。現場の声は切実だ。
「LOGISTICS TODAY」(4月14日付)の記事によると、塗料用シンナー、建材、特装車向け塗装材料、接着剤、そして住宅設備の製造においては、コスト増を製品価格に転嫁することすら不可能となり、「在庫なし」「納期未定」「新規受注停止」といった異常事態が常態化していることが報告されている。
影響は日用品にとどまらない。人工透析用のプラスチック資材など、医療器具の製造に必要な材料の供給にも不安が生じたため、政府は卸売業者を経由せず、メーカーから医療現場へ直接販売を要請するという極めて異例の市場介入を行わざるを得なかった。
