すい臓がんの新薬「ダラクソンラシブ」への期待と課題
医療の進歩でがんば「不治の病」だった時代は終わりつつある。がんのなかでも、とりわけ画期的な治療法が登場し、注目を集めているのがすい臓がんだ。その最先端治療をジャーナリストの岩澤倫彦氏がレポートする。
すい臓がん治療の「暗黒時代」を劇的に変える新薬
早期発見が難しく、大半の患者が短期間で死に至るすい臓がん。5年生存率は全てのがんの中で最も低い11.8%だ。有効な治療法がない為、専門医が「暗黒時代」と評するほど絶望的だった、すい臓がん治療を劇的に変える新薬が登場した。
「ダラクソンラシブ」は、アメリカのベンチャー企業が開発。今年5月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、臨床試験の成績が公表された。日本医科大学武蔵小杉病院・腫瘍内科の勝俣範之教授は、その会場にいた。
「世界中から集まった専門家が大興奮して、スタンディングオベーションが鳴り止みませんでした。それほどインパクトが大きい新薬なのです」
日本医科大学武蔵小杉病院・腫瘍内科の勝俣範之教授
従来の薬物療法を受けた患者の生存期間6.7か月に対して、ダラクソンラシブは13.2月と、約2倍になった。すい臓がん患者の9割にある「KRAS」という遺伝子変異をターゲットにした錠剤タイプの新薬で、1日に1回服用する。世界6か国で同時に行なわれたダラクソンラシブの臨床試験で、日本のまとめ役となった上野誠医師(神奈川県立がんセンター・消化器内科部長)が取材に応じた。
「臨床試験の対象は外科手術で切除できない、または再発したすい臓がん患者でした。薬物療法の二次治療(※薬物療法は一定期間で効果がなくなる為、段階的に薬を切り替える)を受ける患者の大半は、半年程度の余命です。それが、ダラクソンラシブの服用で1年半を超えて生存している患者もいます。すい臓がんに四半世紀ほど関わっていますが、百年に一度の薬と言っても過言ではありません」
神奈川県立がんセンター・消化器内科部長の上野誠医師
従来の薬物療法(抗がん剤)は、すい臓がん患者の体力消耗が著しく、十分な効果が得られなかった。その点でも大きく異なる、と上野医師は述べた。
「ダラクソンラシブの副作用は、下痢、口内炎、皮疹でしたが、いずれもコントロール可能でした。何より薬が効いている期間は、患者の食欲もあって全身状態も非常に良好だったのです」
ただし、ダラクソンラシブで進行がんの患者が完治したという結果は、出ていない。この点は冷静に判断する必要がある。


