大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

日本の少子化対策「本気で進めるなら“税制改革+戸籍撤廃”の検討を」と大前研一氏

いまの「異次元の少子化対策」にどれほどの効果があるのか…(イラスト/井川泰年)

いまの「異次元の少子化対策」にどれほどの効果があるのか…(イラスト/井川泰年)

 岸田文雄・首相は年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明。その具体策として掲げた3つの柱は、【1】児童手当を中心とした経済的支援の強化、【2】学童保育や病児保育、産後ケアや一時預かりなどに対する支援拡充、【3】育児休業制度の強化を含む働き方改革の推進やその支援制度の充実、とどこが「異次元」なのかは分かりづらいものであった。

 新刊『第4の波』を上梓した経営コンサルタントの大前研一氏は、本気で少子化対策をするなら「税制改革+戸籍撤廃」が必要ではないか、と提言する。以下、かねてより「N分N乗方式」の税制導入を提唱してきた、大前氏が解説する

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「N分N乗方式」は、先進国の中で合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子供の数に相当)が1.83(2020年)と高いフランスが導入している制度。所得税の課税対象を「個人」ではなく「世帯」にした上で、世帯の総所得を世帯の人数で割り、それを基に累進税率を適用して課税する方法だ。累進税率の所得税では所得を分割したほうが適用税率は低くなり、子供の数が増えるほど、より低い税率が適用されて税額が少なくなるため、子供を多く持つインセンティブになるのだ。

 ところが、この「N分N乗方式」について鈴木俊一財務相は、課税単位を個人から世帯に改めなければならないことに加え、「共働き世帯と比べて片働き世帯が有利になる」「高額所得者に税制上大きな利益を与える」など「いろいろと課題がある」として、導入に消極的な姿勢を見せている。

 しかし、これは議論の前提が間違っている。私に言わせれば、そもそも日本の所得税の累進課税制度が厳しすぎることが問題なのである。鈴木財務相の指摘は、財務省がサボタージュするための言い訳にすぎない。

 日本の所得税の税率は、課税所得の金額によって5%から45%まで7段階に分かれ、330万円は20%、695万円は23%、900万円は33%と海外の富裕層並みの重税になっている。たとえば、アメリカは10%から37%の7段階だが、日本より累進制が緩く、中間所得層の税率が低い。日本の場合、累進制をもっと緩やかにすれば、中間所得層が「N分N乗方式」の恩恵を受けられるようになって子供を産みやすくなる。富裕層も、子供がたくさんほしい人はどんどん子づくりに励むだろう。

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