大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

日本の少子化対策「本気で進めるなら“税制改革+戸籍撤廃”の検討を」と大前研一氏

自民党的な古い家庭観こそ障害

 ただし、少子化対策には最大の“障害”がある。「戸籍制度」だ。本質的に少子化に歯止めをかけるためには、婚外子(非嫡出子)に対する偏見や差別の要因になっている戸籍制度を撤廃しなければならない。

 合計特殊出生率が2022年に0.78となって過去最低を更新した韓国、2021年に1.30と6年連続で低下した日本は、ともに婚外子の割合が2%台でしかない。40~70%の欧州諸国とはケタ違いの少なさだ。韓国は2007年末に戸籍制度を廃止したが、日本は相変わらず父系中心の戸籍制度を墨守している。この議論がなかなか進まない理由の1つは、それが天皇制にまで影響すると恐れる勢力がいるからだろう。

 一方、欧州の場合、合計特殊出生率が1.77(2020年)で婚外子の割合が50%以上のデンマークは100%母系であり、スウェーデンなど他の多くの国も自国籍の女性が産んだ子供であれば、父親が誰かは問わず、すべて自国民として国籍を与える「レジストレーション(登録)」だ。つまり、母親が相手の男性と法的に結婚していようがいまいが、婚内子(嫡出子)であろうが婚外子であろうが、関係ないのである。その子供の母親が誰かは、間違えようがないからだ。

 日本も本気で少子化対策に取り組むなら、法的に結婚している両性かどうかは関係なく、子供がほしいカップルは人工授精でも養子でも子供を持てるようにすべきである。となれば、夫婦別姓は当然であり、同性婚も認めなければならない。

 折しも、岸田首相がLGBT法案をめぐって「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題」と述べ、当時の首相秘書官発言も問題になった。リベラルを標榜する岸田首相のもとで、奇しくも政府・自民党の保守的家庭観が露呈したわけだが、そういう古い価値観のままで少子化の流れを反転しようと思っても不可能だ。

 今回のLGBT法案を契機に議論が戸籍撤廃の問題にまで進めば、自民党的な古い価値観がひっくり返され、少子化対策にとっても大きなプラスとなるだろう。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『第4の波』(小学館)など著書多数。

※週刊ポスト2023年3月31日号

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