大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

日本の観光業再建には「構想力のあるプロデューサー」が必要 大前研一氏の提言

バラ撒き策だけでは観光業は復活できない(イラスト/井川泰年)

バラ撒き策だけでは観光業は復活できない(イラスト/井川泰年)

 日本のインバウンド需要が急回復している。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、2023年2月のインバウンド客数は147万5300人で、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年2月の約57%に達した。しかし、2022年の旅行業の倒産は18件にのぼり、宿泊業では人手不足も叫ばれている。

 観光業の本格的復活には何が必要か。新刊『第4の波』が話題の経営コンサルタントの大前研一氏は、「インバウンドが急回復する今こそ観光地を一新させる『構想力』あるプロデューサーが必要だ」と提言する。観光業復活の具体策とはどのようなものか、大前氏が解説する

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 観光・旅行業界は具体的にどう改革すればよいのか? 好例は2010年バンクーバー冬季五輪の主会場になったカナダの山岳リゾート・ウィスラーだ。

 スキー場は、夕方に客が山の下へ降りてきて宿泊しなければ、地元の町が栄えない。ウィスラーは麓の町にホテルやロッジ、レストラン、カフェ、クラブ・ディスコ、アパレルショップなどが200以上も軒を連ね、毎夜にぎわっている。

 一方、日本のスキー場の場合、大半はホテルが麓の町より上にあるため、天気が悪いと夜は誰も下へ降りてこない。だから駅前の店は閑古鳥が鳴いている。

 また、いま世界のスキー場は少数の会社が牛耳っていくつものスキー場を一緒に運営し、“規模の経済”で儲けている。たとえば、最大手「Vail Resorts」のシーズンパスは、ウィスラー、アメリカのベイル、日本の白馬バレーやルスツリゾート、オーストラリアのペリッシャーなどで共通利用できる。しかし、日本のスキー場の多くはリフトごとに所有者が異なるため、そのような“規模の経済”による利便性は提供できない。

 私の友人の廣瀬光雄さんが設立したゴルフ場運営会社PGM(パシフィックゴルフマネージメント)は、国内の赤字ゴルフ場を140か所以上買収し、それを一括運営することで経営の効率化と大幅なコスト削減、サービス向上を実現して黒字化に成功した。スキー場もそれと同じで、たくさん束ねて運営すれば経営の効率化とコスト削減が可能になり、サービスも向上させて顧客満足度を高めることができるのだ。

 私は長野・飯山と新潟・越後湯沢で海外の事例を参考にしたスキー場の一体化や一流ホテルの誘致による再建構想を提案している。だが、地元の関係者の目には、それらは自分たちの既得権益を侵害するインベーダーとしか映らないようで、全く動こうとしない。日本の商店街が個々の店の意見を聞いているうちに近代化できず、シャッター街になったのと同じ理由である。

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