キャリア

産業医が考える職場のメンタルヘルス問題 「管理職は自分が言いたいことを言っちゃだめ」

 人には多様性があるということを理解しつつ、ひとつの目的を達成するために合理的に力を合わせるのだという一種の割り切りも必要になってくる。

 メンタルヘルスという言葉からの連想で、産業医は精神科医なのかと思えばそうではなく、臨床医のように、特定の科が専門ということはないそう。

 川村さん自身はもともと内科の臨床医をめざしていたが、名古屋大学の予防医学の教員に招かれたとき、教室が市役所の産業医業務を請け負っていたことからこの仕事をするようになったという。

「その後、京都大学に移ると学校医兼産業医兼教員兼研究者を続けていましたが、一番面白く、年を取るほどやりがいを感じていったのが産業医の仕事です。人間としての経験を積まないとできないと感じることが多いですね」

 医学や心理学だけでなく、経営学や法律についての知識も必要になる。今も、労働法の研究者の私塾に通って法律の勉強を続けているそうだ。

「休職していた人が復職するときに産業医が面談しますが、医学的には休職を続けたほうがいいけど、休職期間には上限があって、これ以上休むとクビになることだってあります。何とか復職したいと、本人や家族に懇願されるようなことも。最終決定権は会社にあると言っても決定に強い影響を与えるので、本当に熟考します。

 そういうときにものを言うのは、やっぱり経験ですね。多様な人をどれだけ分析的に見てきたか、本質は何かを常に考えてきたことが産業医としての判断の支えになっています」

【本の内容】
『職場のメンタルヘルス・マネジメント──産業医が教える考え方と実践』(川村孝・著、ちくま新書)

 いま、職場のメンタルヘルス問題が深刻化している。民間企業の産業医を30年以上務めている著者が、「勤務は契約」「部下管理の方法」「健康的仕事術」「就業管理に関する会社への提案」「職場で見かける精神症状」「休職と復職の過程」など11章にわたって平易な言葉で綴る。《仕事のために人生を台無しにしてはなりません。しょせん仕事はマスカレード(仮面舞踏会)なのですから……》(「おわりに」より)など、目から鱗、クスッと笑える箴言も随所に。こじらせる前に読みたい。

【プロフィール】
川村孝(かわむら・たかし)/1954年岐阜県生まれ。名古屋大学医学部卒業。社会保険中京病院、日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院、静岡済生会総合病院で内科診療に従事した後、愛知県総合保健センターで健診・健康増進業務に携わる。1993年より名古屋大学医学部予防医学教室助教授、1999年より京都大学保健管理センター所長・教授。現在、京都大学名誉教授。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2023年5月4日号

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