大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

日本郵政とヤマトHDの“歴史的提携”の意味 物流業界「2024年問題」よりも深刻な「ラストワンマイル問題」への対策

宅配会社の競争はシステムと長距離

 では、これから宅配会社の競争は何で決まるのか? ラストワンマイルの配達システムと長距離輸送の効率化である。

 たとえば、ドライバーの負担を増やさなくてもできる配達日時指定・再配達のシステム作りだ。配達日時はEコマースなどの荷物を発送する側が、顧客が受け取れる日と時間帯を必ず指定できるようにすべきである。そうすれば、お中元やお歳暮の時期はともかく、ふだんは不在配達・再配達が大幅に減少するはずだ。

 長距離輸送では、荷物配送後の復路を空荷の状態で走る「空車回送」が運送業界の大きな課題になっている。荷物を運んでいない走行にも人件費や燃料代、高速代などがかかるからだ。

 この問題に対しては、すでに共同輸送のマッチングサービスがいくつも登場している。輸送を依頼したい荷主と運びたい空きトラックの情報を参加各社が共有して活用し、空車回送を減らしているのだ。

 あるいは、逆方向に荷物を運ぶA社とB社のトラックの運転手が途中の中継地点で交代する「中継輸送」という取り組みも始まっている。従来は目的地で荷物を降ろして空車回送していたが、中継地点から相手の会社の荷物を積んだトラックに乗り換えて折り返すので、互いに輸送効率が改善するわけだ。

 さらに、複数の荷主と複数の運送業者が、荷物を積載するコンテナ部分を脱着できるスワップボディコンテナ車両を活用し、中継地点でコンテナを載せ替えて運転手が交代しながらリレー方式で目的地に輸送するサービスの実証実験もスタートしている。

 このように長距離輸送については運転手の労働環境を改善するために様々な新しい取り組みが行なわれているので、さほど「2024年問題」を心配する必要はないのではないかと思う。

 物流の最大の課題は、やはりラストワンマイルだ。今回の協業はヤマトと日本郵政だけで、佐川急便などは加わっていない。25年前の私の提案にほんの少し近づいたが、「2024年問題」を根本的に解決するためには、「宅配公社」を設立してラストワンマイルの配送を地区ごとに一元化するしかないのである。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『世界の潮流2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2023年8月11日号

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