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【ダイハツ問題】報告書は“組織的な不正行為”を認めていないが「現場担当者だけで実施できるものではない」と識者から疑問の声

ダイハツ車の現行モデルはすべて生産停止・出荷停止となった(時事通信フォト)

ダイハツ車の現行モデルはすべて生産停止・出荷停止となった(時事通信フォト)

 ダイハツ工業の衝突安全性試験に対する不正行為が公表され、その衝撃的な実態に世間は騒然としている。不正が行なわれたのは、開発中の自動車について、量産前の段階で安全性能や環境性能が関連法規の定める基準に適合しているかどうかを判断する認証試験だ。同社では内部告発を端緒として、今年4月と5月に車両の衝突安全性認証試験における不正が発覚。弁護士らからなる外部の第三者委員会を設置して調査を実施してきた。

 12月20日に公表された調査報告書によると、25の試験項目で計174件の不正行為が確認され、最も古いものは1989年までさかのぼるという。対象はすでに生産終了した車種も含めて64車種(トヨタやマツダ、スバルが販売している車種を含む)に及ぶ。現行販売している車種はすべて該当するため、同社は全車種の出荷と生産を停止した。国土交通省は21日からダイハツ本社(大阪府池田市)に立ち入り検査を行ない、行政処分を検討する事態になっている。

「衝突試験」で繰り返された不正

 具体的にどのような不正行為があったのか。4月に発覚したのは、側面から衝突された時の乗員に対する安全性を確かめる「側面衝突試験」の不正で、ドアに量産時と異なる加工を施して試験を受けていた。

 5月のケースは、電柱などのポールに斜めから衝突した際の安全性を確かめる「ポール側面衝突試験」で、助手席側の試験データを運転席側のデータに流用していた。一般に、運転席側にはハンドルなどがあるため、衝突安全性の基準をクリアするのが難しいとされている。

 今回新たに発覚した不正は、側面衝突時に作動するエアバッグを、試験の段階で制御装置が未開発であったため、タイマーで作動させていたり、前面衝突試験の結果をリハーサル試験の結果に差し替えていたといった不正で、非常に広範囲にわたっている。

 30年以上もの長きにわたって、これほど数多くの不正行為を繰り返しながら、なぜ今まで発覚しなかったのか。三菱自動車で量産型電気自動車「i-MiEV(アイミーブ)」の開発責任者を務め、現在は日本電動化研究所代表取締役を務める和田憲一郎氏は、その理由をこう分析する。

「認証試験の多くは、メーカーが社内で実施し、国交省(の委託を受けた独立行政法人自動車技術総合機構)はその試験結果から安全性や性能を判断します。認証試験はあまりにも多岐にわたり、国交省(機構)ですべて実施するのは不可能だからです。今回の不正のほとんどは、社内認証試験で起きているため、提出された試験結果から不正を見抜くことは難しい。ある意味、“性善説”によった制度と言えます」

 国がメーカーに任せていた認証試験で不正行為が横行していたとなれば、ユーザーなどからの信用をメーカーとして著しく毀損する行為と言えるだろう。同社の調査結果の報告を受けた国交省は、〈型式指定申請において不正を行うことは(中略)自動車認証制度の根幹を揺るがす行為であり、(中略)極めて遺憾〉と表明した。

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