株価が暴落している。日経平均株価をみると、過去最高値(終値ベース)は7月11日に記録した4万2224円46銭だが、8月5日には3万1458円42銭まで下げており、この間の下落率は25%に達している。翌6日には急反発して3万4675円46銭まで回復したが、値動きの荒い展開が続いており、今後の推移は不透明だ。
上昇相場はゆっくりと、下落相場は急激だ。8月5日の日経平均株価終値は昨年10月31日以来の安値である。つまり、過去最高値まで170営業日かけて上昇したものの、その後わずか16営業日でほぼ同じだけ下げている。
行動経済学におけるプロスペクト理論によれば、利益を得ることによる喜びと損失を被ることによる悲しみの心理的強度を比べると、後者の方が約2倍大きい。この損失を嫌がる人間の本能が、相場における価格変動の非対称性を生み出す大きな要因のひとつとなっている。
こうした相場環境で、損切りをすることもなく「長期投資だから」という名目で株を持ち続けている投資家は少なくないだろう。だが、含み損を抱えて生活するのは、とても苦痛だ。今年から始まった新NISAによって、多くの若者が積極的に国内外のリスク資産による運用を始めているようだが、株価急落はグローバルで起きている。専門家たちの予想を聞いて、少しでも安心したいところだが、行動経済学の分野でノーベル賞を受賞した米プリンストン大学の故ダニエル・カーネマン名誉教授などによる研究では、どんな専門家であろうと、株価予想の当たる確率はほぼ50%である。
企業業績の予想を正確に行うためにはそれなりの知識やスキルがいる。しかし、重要なことは、実際の株価水準に、その企業に関する情報がどの程度織り込まれているかを知ることであり、それを正確に評価できなければ意味のある株価予想は難しい。また、経済、金融市場を取り巻く環境は、常に予測不可能な偶然によって左右されている。株式需給に影響する要因は数多く存在し、それぞれが複雑に絡み合っている。起きた現象を後講釈することはできても、それらの相互作用を事前に見極め、結果を正確に予想するのは難しい。
同意したくはないが、少なくともアクティブ運用を行うファンドマネージャーたちの成績や、専門家、企業経営者たちの経済、株価予想の精度について調べてみればわかる通り、彼らの予想精度は投資家が思い描いているだろうそれと比べればはるかに低いと言わざるを得ない。
最近では、行動経済学に対する批判も多く、こうした見方全般を信じたくない気持ちもわからないでもないが、少なくとも株価形成の実態を知る限りでは合理的期待形成仮説を信じるべくもない。