「逮捕状」の画像が送られてきた
それからシマダは「これから重要な書類を準備します。作業の様子が漏れないよう画面を秘匿させてもらいます」とビデオ画面をオフにした。以降、小倉さんが“女性警官”シマダの姿を見ることはなく、声だけのやりとりとなった。
LINE電話による取り調べが始まり、改めて詐欺事件の容疑者であることを告げられた小倉さんは次の瞬間、大きな衝撃を受けた。
「あなたに対する逮捕状が出ています。画像を送りますので確認してください」と言われたのち、実際に逮捕状らしき書面の画像が送られてきたのだ。
「そこには僕の名前や住所や電話番号、生年月日や職業の他に、たしか『犯罪収益隠避罪』と記されていて、担当検事の名前もありました。“うわ、もうこんなところまで事が進んでいるのか”と驚愕しました。さらに息つく暇もなく、記載内容を読み上げることを求められました」(小倉さん)
心臓の鼓動が高まり、動揺を隠せない小倉さんに対して、シマダは淡々とした口調で追及を続けた。詐欺の主犯格とされるナカノシゲミツが元々は小倉さんと同じ県内に住んでいたことを告げたのち、彼女は静かにこう語った。
「ナカノはあなたから楽天銀行の口座を60万円で買い、この事件で得た収益の2割をあなたに支払うことになっていたと供述しています。ナカノの証言を完全に信用することはできませんが、物的証拠もあり、あなたの証言も信用することはできません。逮捕状も出ておりあなたにとって非常に不利な状況です。そのことは理解できますか」
小倉さんは「理解しました」と答えながらも、胸中は恐怖と不安で満たされていた。
「おいおいこのまま身に覚えのないことで逮捕されるのかよ、と背筋が凍る思いでした。この時点で相手を疑うことはなく、逮捕されるという恐怖でいっぱいでした。今になって振り返ってみるとこの段階で勝負は決まっていたのかもしれません」(小倉さん)
突然の出来事にどうすればいいかわからず震撼するばかりの小倉さん。結局、小倉さんは身に覚えのない事件にもかかわらず、詐欺犯に言われるがまま200万円を騙し取られることになった。
本記事では、犯行グループと一度も顔を合わせることなく、警察官だと信じ込まされた巧妙な手口について紹介した。関連記事〈【完全実況】「あれよあれよで定期預金まで解約…」特殊詐欺被害に遭った40代男性が騙され続けた“魔の3時間”に起きていたこと ATM操作も怪しまれないよう周到に誘導〉では、偽の逮捕状を見せられ我を失った小倉さんが、警察官になりすました犯人から提案された“解決策”に乗った経緯を詳しく伝えている。
取材・文/池田道大(フリーライター)