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大竹聡の「昼酒御免!」

【昼酒御免!】店内中央には酒好きを悩ませる缶詰の山 蔵前の「角打ち」で昼日中からあたりめをかじる幸せ

あたりめで日本酒がさらに甘露に

 私は日本酒のコーナーへ足を向け、見つけたのが、「蔦重酒 純米吟醸」という名の飲みきりサイズの1本だった。今年の大河ドラマ「べらぼう」の主人公、蔦屋重三郎の愛称「蔦重」の酒だという。

 このドラマは偶然、第1回の放送を見て興味を持ち、これまで3ヵ月、見逃さずに追いかけている。江戸時代の吉原で始めた版元(今でいう出版社)がどんなふうに発展していくのか、たいへん興味深い。なにしろこの時代、印刷は版木を使った手刷りだし、綴じ紐で1冊ずつ閉じている。おもしろいものにはたくさんの読者がつき、つまらぬものは飽きられる。いかにして話題の1冊とするか、販売促進の戦略なども、今に通じるものがあって、ああ、人のやることはあまり変わらんのだなと思う。そう思って安心したりする。

 そんな蔦重の酒と、昔懐かしいクジラ肉の大和煮。これも安定の味わいであって、揺るぎない感じが嬉しい。

缶詰は温めて出してくれるのも嬉しい心遣い

缶詰は温めて出してくれるのも嬉しい心遣い

 この日の角打ちの最後に頼んだのは、「おいしいあたりめ」だ。この手のものがあると、思わず手が伸びる。しゃぶっているだけでおいしいし、ガシガシと噛めばジワりと味が口中に広がり、後から流し込む日本酒がさらに甘露なものとなる。

酒とイカが合わないわけがない

酒とイカが合わないわけがない

 ああ、角打ち、いいな。昼酒、気分いいな。さて、それじゃ本格的に飲みに出かけるとしようか。ここからだと、浅草、上野、神田、日本橋あたり、どこも遠くない。そして、いずれも江戸時代以来の、本物の東京というか、正真正銘の下町だ。ぶらりと歩きつつ、鳥越あたりで銭湯に寄る、なんてのもオツだねえ。ここいらの銭湯は、湯がとびきり熱いからね。ぐっとこらえて肩まで浸かり、いい汗を流したら、近くの居酒屋でよく冷えた瓶ビールからやり直し、というのもいい。

 さあさあ、そうと決まったら善は急げだ。蔦重酒をくいくいっと飲み切って、私は勢いよく席を立った。

フラッと入って1杯だけなんて使い方ができるのも「角打ち」の魅力(「カクウチカフェ フタバ」東京都台東区蔵前4-37-4)

フラッと入って1杯だけなんて使い方ができるのも「角打ち」の魅力(「カクウチカフェ フタバ」東京都台東区蔵前4-37-4)

シリーズつづく第1回から読む

【プロフィール】
大竹聡(おおたけ・さとし)/1963年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒。出版社、広告会社、編集プロダクション勤務などを経てフリーライターに。酒好きに絶大な人気を誇った伝説のミニコミ誌「酒とつまみ」創刊編集長。『中央線で行く 東京横断ホッピーマラソン』『下町酒場ぶらりぶらり』『愛と追憶のレモンサワー』『五〇年酒場へ行こう』など著書多数。「週刊ポスト」の人気連載「酒でも呑むか」をまとめた『ずぶ六の四季』や、最新刊『酒場とコロナ』が好評発売中。

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