ドイツの次期首相となる見通しのフリードリヒ・メルツ氏(写真右、dpa/時事通信フォト)
2025年4月、トランプ大統領が打ち出した相互関税政策が引き金となり、世界の金融市場は大きな混乱に見舞われた。この混乱の中、ドイツは長年堅持してきた「債務ブレーキ(政府の債務をGDPの0.35%未満に抑える条項)」を緩和し、大規模な財政出動に踏み切るという、経済政策の歴史的な転換を遂げている。このドイツの政策をどのように評価すべきか、株式市場への影響はどのようなものか、個人投資家、経済アナリストの古賀真人氏が解説する。
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株式マーケットは4月2日にトランプ大統領が各国に対する相互関税政策を発表したことを受け、日経平均株価指数は4月2日の終値3万5725円から7日には一時3万792円と、14%近くの下落を記録した。その後もトランプ大統領の発言によりマーケットは乱高下している。
その状況において、今後の見通しにポジティブな影響を与える投資テーマの一つとして「ドイツ」の動向に注目したい。
ドイツは憲法により長年堅持していた債務ブレーキを外し、「財政バズーカ」とも呼ばれる財政出動に取り掛かる。このことは、2012年に行われた日本の「アベノミクス」を思い出せば、その相場のインパクトを理解しやすいだろう。
今回はドイツ関連の投資が今後妙味を持つと考える理由について整理しておきたい。
アメリカへの不信がドイツの財政政策転換を後押し
ヨーロッパは、ロシア・ウクライナ戦争、トランプ米大統領による支援縮小や関税政策などにより、欧州の安全保障環境の不安定化にさらされている。このことに危機感を募らせたドイツ議会は、2025年3月に憲法(基本法)を改正し、長年堅持してきた「債務ブレーキ(Schuldenbremse)」を緩和する財政改革法案を可決した。
これにより、ドイツは防衛やインフラ整備に数千億ユーロ規模の借り入れが可能となり、財政政策の大転換が実現した。これまで憲法で堅持されてきた債務ブレーキ、「シュヴァルツ・ヌル(黒字均衡)」の考え方を破棄し、今後、5000億ユーロの軍事費の増額、ならびに5000億ユーロのインフラ投資、総額1兆ユーロが実行に移され、国債発行による財源準備で政策を後押しするという、歴史的転換となった。
ドイツは自国の経済停滞打破や軍備や欧州のリーダーシップ強化に向けて、大きな一歩を踏み出したといえるだろう。