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中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

「今さら月の石かよ…」大阪・関西万博にモヤモヤする気持ちの正体 「衰退国のいまの日本に五輪や万博を開催する余裕はない」「青島幸男さんは偉かった」

大阪・関西万博の米国館の「月の石」(時事通信フォト)

大阪・関西万博の米国館の「月の石」(時事通信フォト)

「世界都市博」を中止した青島幸男知事の英断

 今回の万博にしても、招待されたであろうインフルエンサーらが絶賛しているほか、過度にホメる人はいるものの、正直「今さら月の石かよ……」とも思いますし、「飛ぶ車」も「人間が乗れるドローンじゃないの?」と思うもの。

 一度経済発展を遂げ、あらかたインフラを構築した日本で、2020年代に五輪と万博をやる必要はあったのでしょうか? 一部の国のパビリオンはまだ完成していませんし、ケチがつき続けています。結局カジノ・IR(統合型リゾート)推進のための布石じゃないか、なんて言われ方もされており、なんだかんだと政治色が色濃い万博になっているのです。

 1970年の万博は、高度成長期で人々が夢を抱ける時代でした。シンボルたる太陽の塔は今でも大阪の象徴的な建造物として人気で、これぞ「レガシー」と言えるでしょう。しかし、2021年の東京五輪と今回の万博は日本に何を残してくれるのか。

 恐らく最終的にはなんの総括もすることなく、「はい、無事終わった。シャンシャン」と終わることでしょう。成功したのか失敗したか、ほとんど評価されることもなく。

 太平洋戦争の時と同じですよ。「もうプランを作っちゃったから無謀かもしれないけど突き進むぜ!」というのが、日本が繰り返す失敗の在り様です。

 とにかく米豪を分断させることを目的としたガダルカナル島への進出にしても、米軍から猛烈な攻撃を受けてもこの島に拘泥し、結局、太平洋戦争の敗北に繋がりました。フィリピン侵攻にあたり、バシー海峡を通過する作戦を立てましたが、おんぼろ船に大量の兵士を息苦しい状態で乗せ、米軍の魚雷攻撃の格好の的になり、ことごとく沈没した。でも、その作戦が失敗であることを認めたくないから、延々バシー海峡に船を送り続けます。しかし、米軍からすればバシー海峡で待っていれば勝手にカモがやってくるわけで、容易に日本軍を壊滅させられるわけです。

 かつての東京五輪や大阪万博は、「これをやれば日本経済が活性化し、国民が元気になる」という方針のもと突き進みましたが、もう時代が違うんです。五輪と万博は新興国がやるべきことです。また、五輪にしてもその存在意義自体が疑問視されているだけに、頼むから今後立候補しないでくれ、もう衰退国の日本にその余裕はない、と強く訴えたいです。

 そう考えると、1996年に東京で開催される予定だった「世界都市博」を、1995年の都知事選に出馬した青島幸男氏が中止にするという公約を発表し、実際に当選後に中止したのは英断と言えましょう。あれから約30年、日本はさらに衰退しているのに万博を強行したのは、無謀だったのでは、と思います。「大屋根リングに登るだけで万博に来た価値はある」などと主張する人もいますが、どうせ壊すんですよね。結局万博で何が残るのでしょうか? 我が国の衰退をまざまざと見せつけられているだけではないでしょうか。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。

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