社長が語った改革のキーワードは「より素早く」と「より多く」
しかし、今年3月末まで社長を務めた内田誠氏や配下の役員は、危機感が乏しかった。
この危機感のなさが、ホンダとの経営統合交渉の破談の一因にもなった。経営統合を成立させるためには「確実に日産がターンアラウンド(再生反転)すること」といった主旨が昨年、統合交渉入りした際のプレスリリースには盛り込まれていた。
だが、交渉関係者によると、ホンダ側の試算では日産の余剰人員は3万7000人と見られていたのに対し、日産側の人員削減案は9000人だったという。また日産社内の一部でも「国内の工場閉鎖は避けられない」といった見方が出ていたが、内田体制では踏み込むことができなかった。
それが一転、エスピノーサ新社長に交代後は踏み込んだリストラ計画を進めることができたのはなぜか。
「経営会議メンバーも入れ替わったことで、危機感を共有することができた。前経営陣が決めたことをすべて洗い直した。私は過去を気にせず、日産の将来のことだけを考えている。(Re:Nissanの)キーワードはfaster(より素早く)とmore(より多く)だ」
エスピノーサ氏自身がメディアに対してこう語ったのである。彼とメディアのやり取りをみていると、質問に端的にかつ的確に答えることが多く、説明が分かりやすい。コミュニケーション能力の高さは、記者の質問にずばりと答えたゴーン氏を彷彿させるものがあると、筆者は感じた。
【プロフィール】
井上久男(いのうえ・ひさお)/1964年生まれ。ジャーナリスト。大手電機メーカー勤務を経て、朝日新聞社に入社。経済部記者として自動車や電機産業を担当。2004年に独立。主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』などがある。
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※週刊ポスト2025年6月6・13日号