大胆なリストラ計画を発表した日産エスピノーサ新社長(写真/AFP=時事)
自動車業界を取り巻く環境は激変のさなかにある。「トランプ関税」によって大手各社の決算は減益予想を余儀なくされた。そうしたなか、窮地の日産では外国人新社長が就任した。その改革案に、かつての“カリスマ”と重なる部分を見出したのは、自動車業界を長年にわたって取材してきたジャーナリスト・井上久男氏だ。【前後編の前編。全文を読む】
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日産自動車は5月13日、経営再建計画「Re:Nissan」を発表した。その内容は、2027年度までに国内を含めて世界に17か所ある車両生産工場のうち7か所を閉鎖し、全従業員の15%に相当する2万人を削減することなどが柱だ。
この発表を受け、4月に就任した日産のイヴァン・エスピノーサ社長は主要メディアとの質疑応答の場で、こう語った。
「人員削減は痛みを伴うのでやりたくてやるわけではない。しかし、これが我が社を救う唯一の方法だと思っている」
同時に発表した2025年3月期決算で6709億円の最終赤字に陥った。これは過去3番目に大きな赤字額。過剰設備に陥り、日米の製造拠点などを減損処理したことに伴い、巨額の赤字に転落した。
新たな経営再建計画の主な内容は、コスト5000億円の削減や、部品種類の7割削減、車の骨格となるプラットフォーム(車台)の種類も13から7に削減することだ。
このリストラ計画の内容や規模は、倒産寸前の危機に陥った日産が仏ルノーから36.8%の資本を受け入れ、経営トップにカルロス・ゴーン氏が就任して1999年から断行した「リバイバルプラン」と似ている。ネーミングからしても、それを意識したと見られる。
筆者は当時、朝日新聞経済部の自動車担当記者としてリバイバルプラン発表の記者会見に出席し、ゴーン氏が「このリストラにより、2年後に日産が黒字化しなければ経営責任を取って辞める」と明言したのを思い出す。
26年前の資料を引っ張り出すと、当時のプランは次のような内容だった。
【1】部品メーカーなど取引先を1145社から600社に削減。
【2】村山工場、日産車体京都工場、九州エンジン工場などの閉鎖。
【3】全従業員の14%に当たる2万1000人削減。
【4】プラットフォームは24から12に削減。
【5】1兆円のコスト削減。
日産はルノーと提携し、リバイバルプランを実行しなければ恐らく倒産していただろう。実は最近までの日産についても社内外から「痛みを伴う大きな改革をしなければ、数年以内に26年前と同じような状況になる」(日産元役員)といった見方が多く出ていた。