ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏
そもそも、日本の農業にはJAが生む歪みがある。
農水省の統計によると、ふだん仕事として主に自営農業に従事している基幹的農業従事者は約111万人(2024年)だが、JAの組合員数は約1021万人(2023年度)もいる。
なぜか? 農家でなくてもJAの組合員になれば大きな恩恵を得られるからだ。
たとえば農機具の購入や施設の整備などに対して政府から様々な補助金や助成金が出ている。ガソリンや肥料、農薬も安く買えるし、JAバンクの住宅ローンやマイカーローンの金利は他の金融機関よりも低い。
そして、農家の最大のメリットは「相続税の猶予・免除」である。農地にも相続税は課税されるが、納税猶予制度があり、相続人が農業を受け継いで一生涯(一部地域では20年間)農業を続ければ、納税猶予された相続税を納めなくてよくなるのだ。サラリーマンのささやかな経費控除とはケタが違うのである。
1960年の農業従事者数は1273万人で、全産業就業者数の28.7%を占める“大票田”だった。だから自民党は農家を優遇したのである。それが2023年には7分の1の181万人にまで減少し、全産業就業者数に占める割合はたったの2.7%になった。
それでも農家に対する数々の多大な優遇政策は温存されている。この歪み=不公平を是正しなければ、日本の農業は健全で強い「産業」にはならない。