「農政トライアングル」の構造を壊す農政改革とは(イラスト/井川泰年)
コメの品不足・価格高騰が続いている。政府が備蓄米を放出しても、収束の気配が見られない。経営コンサルタントの大前研一氏は、「今回の米騒動は、農業政策・食料政策を根本から見直す好機でもある」という。日本の農業改革には何が必要か、大前氏が提言する。
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「令和の米騒動」が収束しない。農林水産省は政府備蓄米を3月に約21万t、4月に約10万tを放出し、今後も7月まで毎月放出する方針を打ち出した。しかし、それでもコメの価格はほとんど下がらず、5kgの平均価格は前年同期と比べて2倍以上の高値が続いている。
農水省の調査では、3月に放出した備蓄米のうち4月13日までにスーパーなどの小売店に届いたのは、わずか1.4%の3018t。この状況が続けば夏の参院選で与党にとって大きなマイナス要因になるから、石破茂首相は自民党に対策をまとめるよう指示した。
コメの品不足・価格高騰の原因は複数あると思う。
まず、備蓄米の入札参加条件が大規模な集荷業者に限られ、しかも買い取ってから1年以内に同量を買い戻さねばならないからだ。
この条件を満たせる集荷業者はJA(農業協同組合)以外にはほとんどない。だからJAに95%もの備蓄米が集まり、精米や包装、輸送などの調整に時間がかかって流通に目詰まりが起きているのだ。そのため、政府は買い戻す時期を5年以内に延長する方針を固めたが、こんな条件をつけること自体が理解不能だ。
もう1つは、JAを介さずにネットで直接販売する農家が増えたことである。たとえば、私の知り合いの農家の場合は消費者や飲食店などからスマホやパソコンに注文が来て、JAに出すよりも高い値段で売れている。その日に精米した分が売れ残っても、近くの「道の駅」に持っていけば、すぐに売り切れるという。
そうなると、お客さんの反応を肌で感じられて値段も自分で決められるから、安い値段でしか買わないJAには回さなくなる。そのため、JAルートに流れるコメの供給量が少なくなって値段が上昇しているのだ。
さらに、自民党が参院選対策で“票田”のコメ農家を儲けさせるためにJAと組んで流通量を制限し、米価を上げたという見方もある。もしそうだとすれば、参院選までコメは品不足と高値が続くことになるが、想定以上に値上がりして高値が続いてしまい、江藤拓・前農水相の「コメは買ったことがない」という失言もあって参院選に悪影響を及ぼしかねなくなったため、石破首相は焦っているようだ。