出荷先をJAから大手商社に乗り換えると、何が変わるのか(写真:イメージマート)
令和のコメ騒動は、いよいよ新たな局面に突入した。価格の乱高下と流通の混乱が続くなか、ついに大手商社が農家に直接コンタクトを取り、現地での買い付けに乗り出したという。既存の流通網を無視した“異常事態”に、コメ業界の関係者たちは騒然──この国の主食に今、何が起きているのか。窪田新之助氏が緊急レポートする。【全3回の第2回。全文を読む】
資金力が違う
秋田で大手商社が農家からの直接買付を実現できたのはなぜか。秋田県横手市にある水田75ヘクタールで稲作をしている農業法人の代表・鈴木眞一さん(仮名)に加え、別の農家からも「商社は資金力が違う」とする声が聞こえてくる。
JA全農あきたは3月下旬、今秋に収穫される2025年産の「あきたこまち」の概算金を、前年産から7200円増の1俵2万4000円と大幅に上げる方針を関係者に示した。概算金は毎年8月から9月に提示されており、この時期に協議するのは異例だ。
だが、商社が提示する金額には遠く及ばない。商社は年明け早々に再び産地に入り、1俵3万円程度で「青田買い」したという。
それにしても、買取価格にここまで開きが生じるのはなぜか。JA秋田ふるさとで改革派として知られた元組合長の小田嶋契氏(現秋田県立大学生物資源科学部客員研究員)は、「販売力の違い」と言い切る。
「コメの販売において、商社は出口が決まっているため高値を示せる。販売先の需要を受けて買い取っている、ということですね。かたやJAは集荷したコメを右から左に流すだけですから」
大規模農家が商社を選ぶ理由は他にもある。商社が一括払いしてくれるメリットがあることだ。
JAの場合、初年度にまず概算金を支払う。さらに、その年のコメを販売していくなかで、実績に応じておおむね2年かけて追加払いするという仕組みになっている。要は農家がJAに出荷した時点では、最終精算額が分からないのだ。横手市の別の農業法人である佐藤雄一さん(仮名)は、こうしたJAの支払方法は大規模農家の経営には合わなくなっていると指摘する。
「規模拡大をするなかで設備や人材への投資がかさんでいるので、キャッシュフローがいい商社のほうが助かります。JAの支払いは不確定要素が多いので、農業経営にとってはリスクでしかありません」