元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏
意向に沿ったようなわざとらしい提案
その点からすれば、2024年12月に行なわれた自民、公明、国民民主の3党協議における、古川元久国民民主党税調会長の対応は“悪手”だったと言わざるを得ない。年収の壁の178万円への引き上げを求めた国民民主に対し、自公が123万円案を提示。その乖離の大きさに怒り、「話にならない」と古川氏は協議を打ち切ったと報じられた。
だが、こうした感情的な対応が一番よくないのだ。
私なら「基礎控除を48万円から123万円へと75万円引き上げるならいいですよ」と答える。要するに103万円という数字が、「基礎控除48万円+給与控除55万円」であることを踏まえた対応をとるのだ。
実は宮沢氏は、意図的に「123万円」という意地悪な数字を出してきた。一見、この数字は基礎控除と給与控除をそれぞれ10万円ずつ上げただけで、178万円を主張する国民民主案とは隔たりがありすぎるように思える。
しかし、この123万円を「基礎控除48万円+75万円」と解釈すると、給与控除55万円と合わせて国民民主の提案である年収の壁=178万円になるのだ。つまり、相手を怒らせるようで、それでいて、見方を少し変えれば意向に沿っているような数字を、わざと提案してきたのである。
ここで怒っては、交渉が決裂するだけ。そうではなく、瞬時にその“底意地の悪さ”を見抜き、逆手にとって「基礎控除を123万円にするのなら納得できますよ」くらいの返しをすべきだった。そうでないと、“ラスボス”に要望を飲ませることなど到底できない。
※高橋洋一・著『財務省 バカの「壁」 最強の“増税マシーン”の闇を暴く』(祥伝社)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
高橋洋一(たかはし・よういち)/株式会社政策工房会長、嘉悦大学教授。1955 年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980 年、大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1 次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008 年に『さらば財務省!』(講談社)で第17 回山本七平賞を受賞。『高橋洋一のファクトチェック2025 年版』(ワック)、『明解!金融講義世界インフレ時代のお金の常識・非常識』(ソシム)、『財務省亡国論』(あさ出版)ほか著書多数。