BLACKPINKのLisaが「LABUBU」のメガ・フィギュアを紹介(Instagramより)
グローバルな広がりを見せる「LABUBU」人気
「LABUBU」は香港出身でオランダで育った絵本作家・龍家昇(Kasing Lung)が2015年に創作した絵本に登場するモンスターの一つであり、耳はウサギのようにかわいいが、口は大きく割けていて、そこからのこぎり歯が出ていて不気味でもある。2019年にポップマートが作家とアーティスト契約を交わしたことで、そのキャラクターが商品化された。もっとも、すぐに人気が出たというわけではなく、当時、本土の若者からは“値段が高くてしかも気持ち悪い”といった評価さえあった。
しかし、韓国のガールズグループ・BLACKPINKのLisaが2024年4月、Instagramを通して「LABUBU」のメガ・フィギュアを紹介したことで、知名度が急上昇した。Lisaはアイドルになるために14歳で韓国に移住したタイ人だ。同じくタイ出身の韓国ガールズグループ「i-dle」のミンニも「LABUBU」のメガ・フィギュアを抱いた画像を公開、彼女たちにタイのアイドル、スターが追従し、さらにナリラタナ王女がバッグにLABUBUを付けている姿などが度々報道されたこともあり、タイ国内で爆発的な人気となった。
BLACKPINKのROSEや、中国の有名女優たち、ベッカー、リアーナ、マドンナといったグローバルに知名度の高いスターまでもが「LABUBU」のフィギュアを装飾品としてカバンにつけたり、メガ・フィギュアを抱えている様子をSNS、マスコミなどを通して露出している。それに伴い、「LABUBU」人気はグローバルな広がりを見せている。2024年12月期の海外売上の内、東南アジアが47%、東アジア・香港・台湾が27%、北米が14%、欧州などが12%となっている。
4月24日から「LABUBU3.0シリーズ」の発売が始まると、ロサンゼルス、ミラノの旗艦店では早朝6~7時には行列ができはじめ、イギリスではショッピングセンター内で商品を巡り殴打事件が発生したほどの過熱ぶりだ。中国本土でも6月5日から7日の日程で開かれたオークションで、ミントグリーンの「初代LABUBU」(高さ131センチのMEGAサイズ)が108万元(2160万円)で落札されるなど、ブランド力は大きく高まっている。
中国の巨大マーケットを持つ優位性に加えグローバルな流行を作り出した
ドリームズ(日本)の手掛けるソニーエンジェルの販売方法を取り入れたブラインドボックスでの商品提供が若者たちの射幸心をあおっているとか、供給をコントロールすることで、99元のフィギュアが流通市場で1000元以上で取引されるなど投機的取引が横行しており“若者のマオタイ酒”などと揶揄されるなど、ポップマートに対してネガティブな意見も聞かれる。
しかし、みずから有望なアーティストを発掘し、育て、能動的にトレンドを探り当てようとするビジネスモデルは変化の激しいこの業界には適している。
中国の製造業は量的にも、質的にも世界最高レベルに達している。SNSのトレンドに素早く反応、流行の出現を的確に把握し生産量を急増させたり、過剰在庫とならないように柔軟に生産量を管理する必要があるが、そのために中国の製造業は欠かせない。他国企業では、うまく使いこなすことはできないであろう。
2024年12月期時点で「LABUBU」を中心とした「THE MONSTERS」キャラクター商品の売上は30億元(400億円、1元=20円)、「MOLLY」が20億元(300億円)、その他2つのキャラクターが10億元(200億円)を超えており、これらを含む13キャラクターが1億元(10億円)を超えている。競争は激しいが、中国の巨大マーケットを背後として持つ優位性に加え、グローバルな流行を作り出すことに成功した点を考えると、今後の成長が楽しみな企業だ。
若者世代は、韓国のポップスターが世界中で受け入れられていることからも明らかなように、自国中心主義よりも「共感できるコンテンツであれば国籍を問わない」といった態度が顕著である。TikTokやInstagramを通してグローバルな「美意識のコンセンサス」が形成され、それは国境を無効化している。若者文化は欧米から非欧米に一方的に流れるのではなく、フラット化、多様化しつつあるといえよう。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。