世界に2か所しかないDMV、その乗り心地は?
今回はJALの特典航空券で羽田から徳島に飛び、室戸岬経由で高知をめざすことにした。
阿南の日和佐に宿泊。阿波海南駅から室戸岬までは阿佐海岸鉄道のDMV(デュアル・モード・ビークル。線路と道路を両方走る車両)を利用。さらにバスと土佐くろしお鉄道で高知駅までまわった。徳島から高知までこのルートを使う場合は、「徳島・室戸・高知55フリーきっぷ」のほうが割安だが、週末のみ運行される室戸岬までのDMVには乗車ができないので注意が必要だ。
阿波海南駅で鉄道モードからバスモードに切り替える途中のDMV。モードチェンジは乗っているときよりも外で見るほうが面白い
牟岐線が終点の阿波海南駅に到着すると、ちょうど上りのDMVがやってきて、鉄道モードからバスモードに切り替えるところだった。DMVが最も興味深いのはこのモードチェンジなのだが、当然のことながら自分が乗っていると、その仕組みを見ることができない。あらかじめモードチェンジを見られる時間を確認しておきたい。
ほどなく、始発地点である阿波海南文化村からやってきた室戸岬行きDMVが到着した。発車オーライネットで予約した名前を告げて指定された座席に乗り込む(阿波海南駅から室戸岬までは片道2300円)。座席指定ができるので、可能なら太平洋の海岸線を楽しめる海側を予約したいところ。
この日は18席に対して乗客は7名。台湾から来た人もいた。DMVも2021年12月に運行を開始してすでに3年4か月。予約制となってはいるものの、座席確保はそれほど神経質にはならなくてもよさそうだ。
DMVはさっそくモードチェンジを開始する。床下から車輪を出し、前方が浮き上がる。モードチェンジの様子はモニターで確認ができる。その時間は30秒ほど。最後に音声案内の女性の声で勢いよく「フィニッシュ!」と締めるのが印象的だ(それ以外はすべて日本語)。
DMVが鉄道モードで走行する阿波海南駅から甲浦駅までは10kmにすぎない。1992年と比較的新しく開通したこともあり、高架とトンネルが多く、ローカル線の風情は薄い。途中、海部駅近くにある町内(まちうち)トンネルは、周囲の開発が進んで土地が掘り下げられ、特異な形で残っているもの。また、高架駅である宍喰駅では、停車時間の間に鉄道モードの車両を撮影することができる。
海部駅近くにある町内(まちうち)トンネルは長さ44m。もともとは普通の短いトンネルだったが、周辺の宅地造成がすすみ、この部分のみ取り残されてしまった
気になる乗り心地だが、レールの繋ぎ目ごとに強い衝撃があり、必ずしもよいとはいえない。スピードもあまり出せないので、並行する道路を走っても所要時間は変わらないのではないだろうかと思ってしまう。だが、鉄道であり、バスにもなるという多くの人が妄想してきた夢が実現したのだから、あれこれいうのは野暮というものだろう。なお、DMVは阿佐海岸鉄道のほか、カナダのブリティッシュコロンビア州でも運行されているらしい。
甲浦駅までの走行時間はわずか25分。そこから再びバスモードに切り替え、室戸岬までは海岸沿いの道路を進む。乗り心地はバスモードのほうがスムーズに感じた。
阿波海南駅を出発して1時間21分後、DMVは室戸岬に到着した。今のところこのDMVが他の地域で採用されるという話はない。実用性という意味では疑問符も残るが、こうした「ヘンな乗り物」ゆえに台湾など海外からも乗りに来る人がいることを考慮すれば、観光に一役買っているようだ。ともかく一生に一度は体験してみてもよいというのがDMVに乗った正直な感想である。